【完結】番が見ているのでさようなら

堀 和三盆

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33 番が見ているのでさようなら、番が見ているのでさようなら、番が見ているのでさようなら、番が……

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 俺の番はちゃんとこの世界に存在している――。


 そう考えるだけで自然と頬が緩む。
 段々と現実感が出て来て、喜びが隠せない。


 どこだ? どこにいる? 俺の愛しい番。
 恥ずかしがっていないで出ておいで。

 視線を感じた方向へ。俺は本能の赴くままに街中駆け回った。

 それなのに。


「あらぁ? 今日一人なのぉ? うふふ、珍しーわねぇ、これから私とぉ……」
「あ♡ あのさぁ、よかったらぁ」
「この間の夜は素敵だったわぁ」
「やっほう! 元気ぃ? あのさ」
「暇なの? 実は私もぉ……」
「ねえ……♡」


 そんな俺を見つけて話しかけてくるのは、愛しい番ではなく、何の必要もない遊び相手の女ばかり。


 うるさい、うるさい、うるさい! 今、俺はそれどころじゃないんだよ! こんな姿を見られて、また愛しい番に誤解をされたらどうするんだ!!


 ――だから。 


「番が見ているのでさようなら」
「番が見ているのでさようなら」
「番が見ているのでさようなら」
「番が見ているのでさようなら」
「番が見ているのでさようなら」
「番が見ているのでさようなら」
「番が見ているのでさようなら」


 女に話しかけられる度に、俺から別れを切り出した。
 それなのに次から次へキリがない。

 ……まあ、仕方がないか。
 だって、番の視線を感じ、ついさっき全てを思い出したばかりなのだから。それまで俺は前世同様に生きていた。
 けれど女から寄ってくるのだから俺のせいじゃない。

 別れを告げる際、正直見覚えのない女も多かったが――番と間違えたりはしないから大丈夫だ。
 俺だって獣人だ。だから番の視線は判る。

 ちゃんと「いる」「いらない」の区別はつく。

 ……大丈夫だ。もう迷ったり番の愛情を試したりはしない。前世と同じ失敗は絶対におかさない。いらない女は迷うことなくゴミ箱へポイ。

「番じゃないのでさようなら」だ。


 俺は障害物のように邪魔をしてくる過去に関係した彼女達に別れを告げながら人込みをかき分けて。
 時折微かに感じるあの視線を頼りに番を追い続けた。


 そして街中追いかけ、ようやく追いつき見つけた俺の番は――。



 色が白く、顔も整った、肉付きの良い――猫獣人の女。


 それが俺の番だった。


 つい、触りたくなるようなふわっふわの耳がとても愛らしい。よほど驚いたのか、白い顔を青くしていた。
 目を見開いたように固まっていたのが少しだけ気になったが、それよりも初めて見る番の姿に感動でいっぱいだった。


 ああ、なんて美しいんだ。可愛らしい顔立ちのせいか少しふっくらとして見えるが、ガリガリにやせ細った女より断然いい。抱き心地の良さそうな、出るとこはしっかりと出ている健康的な肉体は、バッチリ俺の好みだった。

 張りのある白い肌もきめ細やかで美しい。その瑞々しい肌に触れた感触を想像したらうっとりとした。


 ああ、大当たりだ。女神様ありがとうっ!!


 前世では、何をあんなに頑なになっていたのか。自らの行いでこの彼女を失っていたかもと思うと、恐ろしくて堪らない。

 こうして直接出会った今だからこそ、正しくその価値が理解できる。俺達は運命の番なのだ。だからきっと――こうなることすら運命だったのだろう。そう思ったら我慢なんて出来なかった。
 いや、する必要なんてないんだ。だって、俺達は紛れもなく『運命の番』なのだから。


「会いたかった。やっと見つけた。俺…、の……」


 俺は自らの運命に引き寄せられるままに。ようやく出会えた番へと手を伸ばした。




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