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28 私にできること(ふわふわ耳視点)

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「貴女に会いたい……今すぐ、会いたいよぅ……」


 再び聞こえ始めた泣き声に、リュシーの顔を見ると嫌な予感がした。

 考えていることが何でもすぐに顔に出てしまう素直なリュシー。あの賭けをしてから、何度も目にした危うい表情をしている。

 私の弟の用意した危険な策に、自ら喜んで協力してしまいそうな、思いつめた顔。

 あの賭けをどうにか成立させるために女神様の救済措置を言い訳にした約束を追加したけれど、あれは正直、正解だったと思っている。

 アレが無かったら、すぐにでも私の後を追ってきてしまいそうな危うさを彼女は持っていた。私が死んだあとリュシーが今日まで頑張ってこられたのはあの約束があったからだ。

 ……だとすれば。私との約束を果たし、報告を終えた彼女が次にとる行動は……。


「会いたい……ひっく……また一人になるくらい…なら……いっそ…………」


 ああ、もうっ! こうして目の前に居るというのに、慰めることも、元気づけることも……怒ることすら出来ないなんて! 何もできないのがもどかしくて堪らない。

 目的は一つなのだから方法なんて何でもいいの。
 どうにかしてリュシーに前を向かせる方法はないのかしら?

 あの日から49日。私がこの世に居られる時間もあとわずか。孤児院育ちで家族もいない彼女はこのままでは確実にこちら側へ来てしまう。
 私との約束は果たしたのだから、後は自由に生きて幸せになってくれればいいだけなのに。

 苦しさからは解放されたけれど、時間も肉体も無いとか本当に不便。たった一人しかいない友達なのにその一人すら助ける事が出来ないなんて、生きていた時より今の方がよっぽど苦しいわ。どうにかしないと。既に死んでいるのに、このままじゃ死んでも死にきれないわよ。
 でも、体も持たない今の私にできることなんて……。

 ――そこで、ハタと気が付いた。

 そうだ…彼女は今、その為にココに来ているんじゃない。生きているうちに番に出会うことが出来なかった私は、一つだけ大きな武器を持っている。



 番に出会えなかった獣人に与えられる、女神様の救済措置――。


 ――それによりたったひとつ。
 私は願いを叶えてもらうことが出来る――



 出会ってもいない女好きの番との縁を切るか切らないか。

 元々、女神様の救済措置はあの賭けを成立させるための方便だったのだし、そんなものはどうとでもなるわ。私は獣人としての血が薄いせいか、あの両親を見て育ったせいか、憧れはあっても番への執着は薄いのよ。そっちは自分の力で何とかしてみせる。

 私としたらまだ出会っていない番よりも。
 既に出会っているこっち――大切なお友達の方が大問題。

 ――だとしたら……。



 ひっく…。ひっく…。ぐすん……


 …ひっく……………………………
………………………………
……………………
…………




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