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25 言えなかったこと(ふわふわ耳視点)
しおりを挟む番でありながら親愛の情すら生まれなかった私の両親。
私の両親はどうしようもなく憎み合っていたけれど、全ての番がそうとは限らないじゃない?
物語に出てくる番は幸せそうで。いつだって愛に溢れていて。
だから私は本を読むのが大好きだし、そんな物語の中に出てくるような真実の番に憧れていたの。
ちなみに私の一番のお気に入りは最初にお勧めしたあの本よ! 最後にも……貴女に借りてきて欲しいとお願いしたあの『番の本』。
…ごめんなさいね、リュシー。貴女もあの本を気に入ってくれていたのに、私のせいで嫌いにならなければいいけれど。
あの本は……ドキドキ、ワクワク。少しハラハラもするけれど、最後はちゃんとハッピーエンド。そんな明るくて楽しいお話ばかりが載っているから、読むと元気がもらえるの。だから大好き。
一番のお気に入りはあれだけど、他にお勧めした本も気に入った理由はほぼ同じ。
両親のことはあくまでもレアケース……本に夢中になることで、そう思い込みたかったのかもしれないわね。
番への夢を壊したくなくて、リュシーに家族の詳しい事情は話せなかった。
だからそのあたりは上手く誤魔化して。
両親には愛人がいる、とか。
夫婦関係が冷え切っている、とか。
そのせいで弟がシスコンを拗らせている、とか。
その辺のことだけを話したの。まあ、それだけでも十分一大事だものね。
そして――あの日。私はリュシーに意地悪をした。ああなることが分かっていて、前もって図書室の見つけにくい場所にあの本を隠したの。
本を隠して目の見えない貴女に取りに行かせる――
すごく意地悪よね。
私がやったことはリュシーの飴玉を奪っていた子供達と何一つ変わらない。でも、時間を稼ぐにはああするしかなかった。
……あの賭けを持ち掛けた事もそう。リュシーが嫌がるのは解っていたけれど、時間を稼ぐためにはああするしかなかった。
私にとってはたった一人の姉思いの優しい弟だけれど、私の為なら手段を選ばない怖さはリュシーと出会ったあの日に身に染みて分かったから。
ああ、でも誤解はしないでね? 作られた偶然ではあったけれど、リュシーとのあの出会いは本当に素晴らしいものだったと思っているわ。
私は結婚も出産も諦めていたけれど、もっと早くに諦めていた『お友達』が出来たのだもの。しかも、身分も何も関係なく付き合える、『親友』とも言えるお友達よ? 嬉しく思わない筈がない。
弟にひとこと言ってやりたい気持ちは今もあるけれど、その点では感謝してもいいかもしれないわね。それに、先生の身分を考えたら、この病院内に人を潜り込ませることの方がよっぽど大変だもの。
弟にとっては完全に誤算だったでしょうけど、リュシーの身はそれで却って守られることになったはず。あのまま孤児院で暮らしていた方が危なかった。
これは完全に不幸中の幸い…ってやつね。
でも、私の病状が悪くなるに従って弟がリスクを取ってでも強硬策に出る可能性が高まってきた。だから、私も弟と同じようなことを考えていると見せかけるために、リュシーにあんな無茶な賭けを持ちかけたの。
その上で『もう少し魔術移植に耐えられる体力をつけないといけない。今のままでは無理』とか何とか言って、弟をうまいこと誘導した。ソレが上手くいっているうちは、貴女の身は安全だから。実際、私の狙い通りに上手くいっていたわ。
けれど……きっと、獣としての直感ね。それからすぐに自分の残り時間が少ないことが分かった。
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