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24 運命の番(ふわふわ耳視点)
しおりを挟む私の両親は番だった。出会えれば奇跡と言われる、正真正銘の『運命の番』。
全ての獣人の憧れで。出会えば深く愛し合って。決して離れることはなく。幸せが約束される――そう言われている運命の番。
けれど、そんな運命の番であるはずの父と母はちっとも愛し合っていなかった。
侯爵家だった私の家は確実に血や権力を繋ぐ必要があり、昔から政略結婚が多かった。親族だった母の家も同じ。
そのせいだろうか。獣人としての血は薄くなり、両親はせっかく番と出会えたというのに二人の間には穏やかな愛情すら芽生えなかった。
お互いがお互いの浮気相手に真実の愛を見出して。運命の番の存在は自分の愛を邪魔する悪役にしかならなかった。
番の血を取り入れることは一族の繁栄に繋がるからと親族からは婚姻を強要されて。顔を合わせれば憎み合って喧嘩ばかり。なのに、決して別れることはできず。幸せなふりを強要される――そんな、両親。
しかも、跡継ぎを産みこれでようやく義務を果たして番から解放されるかと思いきや――産まれたのは私のようないつ死ぬかも分からない体の弱い女の子。
そのせいで私の両親は再び番に縛られることになってしまった。
それでも最初のうちは愛されていると誤解するくらいには大事にされた。当たり前よね。私が健康を取り戻し、跡継ぎとしての役目を果たせれば、それで両親は解放されるのだから。けれど私の病状が悪化すると両親は諦めて弟を作った。
今度こそ役目を果たした両親は待たせた愛しい人の元へと駆けつけあまり帰ってこない。愛されているなんて誤解もすっかりとけきって、最初から愛されない弟は唯一の家族である私を喪うことをひどく恐れた。
過保護にベッドへ縛り付けられるようになって。たまに体調の良いときにしていた庭の散策すら心配の名のもとに許されなくなって。
心臓以外もどんどん息苦しくなって、どうしようもなくなったときに――魔法医の先生に出会った。
「もしかしたら病気が治るかもしれない」――そんな魔法の言葉で弟の許可も出て、私は魔法医の先生の元へ逃げ出すことができた。
それでようやく呼吸が楽になった。
ふふ、魔法医の先生はあれで誰よりも身分が高いから、邪魔しようにもできなかった…っていうのが正解かしら。
それでも先生の持つ技術も熱意も本物よ。留学していた他国からは帰国を渋られたらしいけど、どうしてもこの国の為に最新の医療技術を取り入れたかったのですって。
――まあ、その熱意が強すぎてその他のことにはいっさい興味もないし、ご自分の生活は常に後回しにしているところはあるけども。
それでも先生には感謝しているわ。あのまま家で過ごしていたら心まで壊れてしまうところだった。
それに希望ももらえたわ。
もし、先生のお役に立つことができて。
もしも、健康になれたら。
今度こそ、どこまでも遠くに逃げることができる。
両親みたいに番が近くにいるとは限らないから、健康になったら自分の番を見つけに他国へ旅するのも楽しそう!
……そんなことを考えるだけで楽しくなれた。
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