【完結】番が見ているのでさようなら

堀 和三盆

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22 番が見ているのでさようなら2(リュシー視点)

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 番とはいったいなんなのか。
 こうして出会った今でも正直分からない。


 愛おしさは感じるし欠けていたものがピタリと収まったような充足感はあるけれど、ひび割れて虫食いだらけだった私の大部分を埋めてくれた貴女ほどのものとも思えない。

 以前からそうだろうな、と思っていた通り。目が見えるようになった今でも、番に出会えた今でも、私にとっての優先順位は変わらなかった。


「でも、今は――少しだけ分かるわ。一部分だけでもあなたと一緒に生きていけるし。何より――私だけでなく、一番好きなのは『貴女の目』って真っ先に挙げてくれる人がいるのだもの。だから。本当はすぐにでも会いたいし、今だって貴女の声が聞きたいけれど」


「…リュシー…嬢……」


 かなり離れた場所から声がした。振り向くと、ビックリした顔してこちらを見る大きな人がいる。この距離で聞こえるとは思っていなかったようだ。
 猫獣人だから、というだけではなく、私が育った事情から音には敏感だと伝えてあったのに。

 邪魔してしまったことを申し訳なく思っているのだろう。眉を下げて、大きな体を小さくしている。愛する人のそんな些細な仕草まで見ることのできる幸せをくれたのは間違いなく彼女だ。


「ふふ、思った以上にせっかちみたい。入り口で待っていてって言ったのに。本当は彼を紹介しようと思ったんだけど、せっかくの貴女との時間を番に邪魔されたくなかったの。でも、あまり待たせるのも可哀想かしら」

 ――チリン!


 スカートのしわを伸ばして立ち上がると、まるで返事をするみたいに音がした。彼女が本に付けてくれたあの鈴だ。
 全ての検査が終わって退院する際、魔法医の先生に頼んだら快く私に譲ってくれた。そういえば、ココの場所を教えてもらえたのも貴族である先生のお陰だった。だからこそ私は番探しに専念できたのだ。個人情報の管理上どうかとも思うが、一応、忙しい先生の代理での墓参り、という体で聞き出してくれたしお花代も出してくれた。

 だから、というわけではないが。彼女が好きだった先生は少しだけ見直した。ちなみに番があまりにもアレだったから、という影響はかなりある。それも前回の報告の際にしっかりと伝えてある。


「私ね、彼について他国に行くことにしたの。でも、先生に頼まれたから一年に一度は戻って来て、定期検査には喜んで協力するつもりよ。だから、その時にまた来るわ」

 リュシー嬢…と声がした。声を小さくすれば気が付かれないと思ったのだろうが、さっきより更に近づいている。仕方ないな……と目を見て笑うと私の番が真っ赤になった。


 ふふ、分かるわ。彼女の目はキレイだもの。

 でも、貴女との時間は邪魔されたくないから、本当に今日はここまでにしておくわ。


「番が見ているのでさようなら」

 またね……と。笑顔で大きな番の元へと駆け出せば。




 ――チリィィン!

 二人を祝福するように――――ひと際澄んだ音がした。




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