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20 彼女との約束(リュシー視点)
しおりを挟む本には彼女が私の為に用意してくれた鈴が付いている。先ほど聞こえたのはこの鈴の音らしい。音と、指に馴染むその滑らかな触り心地に覚えがある。
本を手に取りページをめくると、文字がびっしりと書いてある。
私は文字を知らないし、そもそも初めて見るのだから読めるはずがない。
――なのに、読むことができた。全てを暗記しているからだ。
彼女が優しい声で読んでくれた――番の愛の物語。
ペラリ…ペラリ。
ページをめくるタイミングすら覚えている。彼女が、それだけの回数、私に読んで聞かせてくれたからだ。些細なことで落ち込んでいたり、元気がない時には必ずと言っていいほど読んでくれた。そして、読む度に何度も語り合った。
自分たちの番はどんな人なのか――と。
『彼女の目』から涙が落ちる。
……そうだ。私が望んでいた状況とは真逆になってしまったが、それでも私は一人じゃない。たとえ一部だとしても、彼女が一緒に居てくれる。――それに。
「…哀しむのはまだ早いわね。まだ、私は彼女との約束を果たしていないもの」
今世では番に出会えなかった彼女は女神様の救済措置を受けることができる。彼女が来世で確実に番と幸せになるためには、私が彼女との約束を守らなくてはいけないのだ。
「そうよ、落ち込んでいる時間なんてないわ。何といっても、彼女の魂がこの世にいられるのは49日間だけなのだから。その間に彼女の番を探し出した上に、その人となりを見極めて、彼女のお墓まで行って報告をしないといけないんだもの。効率的に動かないと、とてもじゃないけど間に合わない」
――目が、覚めた思いだった。
彼女の目を貰って。今日だけでも色々なことを知ることができた。
彼女の気遣い。内面だけじゃない、外面の美しさ。
そして。
美しくて、思いやりがあって、優しくて、世界で一番大切で大好きな彼女だけれど――やはり、彼女はあまり男性の趣味が良くない。
魔法医の先生は悪い人間ではないしいい人だけど――彼女にはもっと相応しい人がいるはずだ。
(…そもそも、先生は彼女の番ではない)
恐らくは彼女の目に慣れてきた影響だろう。何となくだけど、それが分かるようになった。だからきっと、コレは私にしかできないことだ。
彼女の目を使って彼女の番を探し出す。
そして、私が彼女の番を見極める。
彼女の好みは知っているけど、知っているからこそ心配で堪らない。
彼女は本を読んでいてもそうだったのだから。
登場人物の中で彼女が好意を寄せるのは。
研究肌で異性に興味がない人物とか。
能力は高いが勘違いが激しくて拗らせた人とか。
顔と血筋は素晴らしいが絶対に幸せになれなさそうな宿命を抱えていて恋愛どころじゃない人――とか。
とてもじゃないが、パートナーを幸せにしてくれるようなタイプではない者ばかり。あれでも、魔法医の先生なんかはまともな方だ。それでも彼女には相応しくないけれど。
……彼女の番はどんな人物なんだろう。
種族は? 性格は? 倫理観は? 年齢は?
そもそも異性への好みというのは、番にも影響するのだろうか。それとも、好みとは全く違う相手でも、番ならば魅かれるのだろうか。
番と出会ったら番への思いが優先されて、彼女がずっと抱いていた魔法医の先生への仄かな恋心は消えてなくなるのだろうか。
……分からないけれど。私の、世界で一番大切で世界で一番大好きな彼女には、世界で一番幸せになってもらいたい。
番の観察にはたっぷりと時間をかけた方がいいだろう。番を探し出したら、丁寧に、そしてじっくりと。世界一厳しい目で彼女に相応しいかを見極めようと思う。
だからこそ、今はつらくても、苦しくても。しっかり食べて、受けるべき検査を全て受けて、一刻も早く退院できるようにしなくては。
来世で彼女が彼女に相応しい番と出会い、今度こそ幸せになれるように――――。
「…………と思って、頑張って本当に良かった! 何なのよ、あの女好き! ねえ、女神様に頼んで番を別の人に変えてもらったわよね!? 大丈夫よね!? お願い、変えてもらったって言って!!」
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