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19 鈴の音(リュシー視点)
しおりを挟む検査を終えて部屋へと戻ると、既に彼女は居なかった。
魔法医の先生に言われた通り検査は大変だった。様々な機械を使って、よく分からない数値を測ったり、色々な物を見せられたり――それに答えたり。
視力検査というのも初めてだった。
全てにおいておっかなびっくりで。先生に聞かれていることもよく分からないし、答え方が合っているのかも分からない。初めてのことばかりで疲れてしまった。
今までのように彼女に報告したいが、在るべき場所には何も無い。部屋を離れている間にキレイに片付けられてしまったようだ。丁寧に消毒もされて、その香りすらも消されようとしているが――自慢の鼻がかすかに残った彼女の痕跡を嗅ぎ分ける。
そのことで、更に物悲しさを感じてしまう。
今日初めて知ったのだが、普通の病室はベッドがカーテンで仕切られているらしい。けれど、この部屋では目が見えない私の安全のために出来るだけ障害物は取り払われていて、検査時や着替え以外は常にカーテンも開けられていた。
だから廊下側のベッドを使っていた私も窓からの風を感じることができたし、困った時も少し歩いて手を伸ばせばいつでもベッドで寝ている彼女に触れることができた。全ては彼女の配慮からだったそうだ。
これから数日の間は今日以上に色々な検査が詰め込まれている。戸惑ったり落ち込んだりしても、私にはもう相談する相手も居ないのに。
先生は検査の結果に夢中で、時折笑い声をあげていた。顔を見て思った。これが、笑顔なのだろう――と。
彼女が好きだと言っていた、『何かに夢中になっているときの先生の笑顔』。
けれど私にはどこがいいのかなんて分からなかった。
むしろ、先生が既に彼女のことを忘れている証拠のように思えて、腹が立って仕方がなかった。
「……貴女には悪いけど、私にはあの先生のどこがいいのかサッパリ分からないわ」
ベッドがあった場所に立ち、もう居ない彼女に話しかける。
出会ってからというもの、私達は色々な話をした。その中でも特に多かったのは番や恋の話だ。だから彼女の好みはよく知っているし、好きな人の話も聞いてはいるが――それを理解できるかはまた別だ。
実際に『目』で見てみても、私自身の先生の評価は今までと変わらなかったし、彼女の気持ちも理解できなかった。
このことを話したら彼女はどんな反応をするのだろうか。
彼女に会いたい。話したい。
…いっそ……彼女に会いに行ってしまおうか……。
心と体が疲れ果てていて、そんなことを考えた。立っているのが億劫になって、後ろに倒れ込むように仰向けで廊下側に在る自分のベッドへ寝転がると。
チリン!
まるで、そんな私を叱りつけるように。病室に高い音が響いた。
ビックリして音の方へと顔を向けると、一冊の本があった。
彼女に頼まれて借りてきた――番の本だ。
図書室から病室へと戻った後のことはバタバタしていて、どこに置いたか覚えていないが、誰かが私のベッドの上へと本を届けておいてくれたらしい。
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