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14 彼女を通して広がるセカイ(リュシー視点)
しおりを挟む二度とあんなことがないように、と私と彼女はとにかくいろいろな話をした。時間を惜しむように、検査や診察がない時はいつも二人で話していた。
よくこんなに話が尽きないな、と思ってしまうくらい。
貴族は貴族というだけで全てが足りていて、幸せなのだと思っていたけれど。彼女も色々な問題を抱えているのが分かった。体のことや、家族のことや、将来のこと。
それでも真っすぐな彼女は凄い、大好きだ――。
それを伝えるたびに、ありがとうと言って、私の耳を彼女は優しく撫でてくれる。
これは、二人で決めたありがとう、とか嬉しい時のサイン。見えない私の為に、彼女が考えてくれたものだ。彼女の優しい手つきに、私はいつもうっとりとしてしまう。
彼女と私はそうやって病室で過ごすことが多かったけれど、本が大好きな彼女と一緒に、病院内にある図書室に行ったりもした。
私は孤児院出身で、学校には通っていないから文字を読むことが出来ない。目も見えないから本を借りても仕方がない。だから図書室に行く意味がない――彼女にもそのことを伝えて最初は断ったのだが、たとえ文字が読めなくても読む方法はあると言って、珍しく彼女は譲らなかった。
そうして連れて行かれた図書室で。彼女にどんな本が読んでみたいかと聞かれたから、私は何となく『番の本』と答えた。
獣人として興味はあるし話には聞いていたけれど、身近で番に出会ったという人はいない。なので、詳しく知っているようで知らないのだ。
どうやら彼女も番のことについてはかなり興味があったらしく、それならおすすめの本があると言って、嬉しそうに私の代わりに本を選んでくれた。
そうして数冊借りてきたものの、どうするのかと思っていたら。
「こうすればリュシーも一緒に読めるでしょう?」
そう言って。彼女は借りてきた本を二人で読めるようにと、わざわざ声に出して読んで聞かせてくれた。
知っている話に、知らない話。ワクワクするような話や、ちょっぴり大人でドキドキするような話もあった。
大好きな彼女の声で語られる番の愛の物語の数々。
気付けば私は夢中になって彼女の声に耳を傾けていて。
孤児院にいた他の子供達が薄くてボロボロの本を手に先生方にやっていたのと同じように、彼女に何度も何度も、気に入った本の読み聞かせを強請っていた。
それからも彼女は色々な本を読んでくれた。
読書が好きな彼女が私のために、おすすめだと言って読んでくれる本はそのどれもが面白くて、また、勉強にもなった。
本を通じて無限に広がる世界。彼女の声と共に私の世界は広がっていく。
私はあっという間に本の世界に夢中になった。
彼女が私に本を読む楽しさを教えてくれたのだ。
けれど――と、私は思う。
彼女は自分で厳選した面白い本を私に読んでくれているけれど、その全ては彼女が一度は読んだ本なのだ。私の為だけに、同じ本を何度も読むのは彼女の時間を無駄にさせてしまっているのではないか。
私が抱いたそんな不安は彼女が即座に否定してくれた。
「リュシーだって、同じ本を読んでほしいって何度もおねだりしてきたじゃない。それと同じよ。私だって面白い本は何度読んでも楽しいし、何回だって読み返したくなるわ。……それに、リュシーに読み聞かせをして初めて気が付いたのだけど」
少し照れたように、何故か口ごもる彼女。喋ってくれないと私には分からない。気になって仕方がない。
「なに? 何に気付いたの? もったいぶらずに早く教えてよ」
「――ほら、私は小さい頃から体が弱かったから。学園にはあまり通うことが出来なくて、お勉強は家庭教師に教わっていたの。そのせいで、今みたいにお友達と本の感想を言い合ったりしたことが無かったのよ。そもそも、お友達ができたのもリュシーが初めてだったし。だから、読書にはこんな楽しみ方もあるんだな……って気が付いて。リュシーのお陰で、私の世界が広がったみたい。ありがとう、リュシー。また、私に本の感想を聞かせてね」
彼女の言葉に安心して――そして、すごく嬉しくて。彼女とは何時間も本の感想を言い合った。そうすることで私はますます本の世界に夢中になった。
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