【完結】番が見ているのでさようなら

堀 和三盆

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9 もう遅いです

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「い…いや、だって。さっき期限は49日って言っていたじゃないか。俺が番の視線を感じ始めてから、まだ、そこまでの日数は経っていないはずだ。だから、彼女の墓に直接、俺が出向いて報告する。確かに途中までは番に対して不誠実だったかもしれないが、最終的には本命だった彼女とだって別れたんだ。だから、番にも俺の考えや事情を説明すれば…そうすれば………」

「手遅れです。言ったでしょう? 親友との約束通り、期限ギリギリまで親友の番である貴方を見て。私が見たまま感じたままを親友には報告しました。――ああ、貴方は勘違いをしているようですね。いくら魔法での移植はすぐにおわるとは言っても、移植をして即退院、という訳にはいきませんよ。経過観察期間が終わって魔法医の先生に退院の許可をもらい、あちこち探し回って貴方を見つけ、残された期間を目いっぱい使って観察をして……。その上で、私の見たまま感じたままを親友には報告したんです。なので、実際の期限は今から二週間程前ですね。ほら、番の為に身辺整理を始めたのかと思えば、女とイチャイチャを繰り返していた頃です。貴方は自分の番が見ていると思っていたのですよね? それなのに、番の前で見せつけるように、色んな女と何度も何度も何度も……。――まあ、私は番ではないので、痛くもかゆくもなかったですが。だからこそ約束していた報告を終えても観察を続けていたんですよ。自らの番を前に、どうしてこんな残酷なことができるのか。いつまで続けるつもりなのか。不思議でたまらなかったし、興味があったので。ああ、確かに最終的に本命らしき女とは別れたようですが、それは親友への報告後の出来事です。貴方の声は――いいえ、私の声も、ですね。もう、親友には届きません。彼女は既に声も届かない場所へと旅立ちました。だから、もう遅いです。何もかもが手遅れなんです」

「そん、な――」


 足から力が抜けて、俺は膝からその場に崩れ落ちた。両方の手を地面についてどうにか体を支えるが、もう、立ち上がることはできなかった。


 俺は番を喪った。
 ならば視線だけでも…と、縋った偽者には拒絶をされて。
 こうして未来での希望も失った、

 ――例えこの先何度生まれ変わっても。俺は未来永劫、運命の番と出会うことはない。


 顔をあげる気力すらもはや残っていない。力を失った俺の目が映すのは地面のみ。視界に水玉の模様が出来ては広がり土の色を変えていく。
 今更泣いても遅いのに。

 そもそも欲していなかったはずのモノを喪っただけなのに、どうして心に埋まらないほどの大きな穴があくのだろう。それが運命の番という物なのだろうか。
 ……だとしたら、番とはなんて残酷なのだろう。


 何が、見た目がいいだ。何がモテモテだ。


 どうして以前の俺はあんなにも自信満々に胸を張って生きていられたのだろう。輝かしいと思っていた人生の、ほんの僅かな期間をこうして人に見られただけで、こんなにも後悔に苛まれているというのに。

 短い人生の最期の最後まで。運命の相手に思いを馳せていた番に対し、後戻りのできない選択を選ぶように追い詰めて。俺は何をあんなにも浮かれていたのか。

 自分の考え無しの行動が何を引き起こすかも考えないで。

 人づてで、直接、本人に見られたのではないことだけがせめてもの救いか。――そんなこと何の言い訳にもならないが。




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