【完結】番が見ているのでさようなら

堀 和三盆

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6 黙っていられなかった

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「そのかわりに自分が先に死んだら出会うことのなかった番をその目で見てきてほしい――それが彼女の願いでした。そして、賭けに勝った私は彼女との約束を守ることにしたんです」

 突然、目の前に現れた――俺の番の目を持つ女。

 俺のケガの手当てをしながら。彼女が淡々と語ってきた衝撃的な話の内容に体が震える。
 長い説明を終えると女はじっと俺を見た。


「……本当は、私もこんな風に姿を現すつもりはなかったんです。でも、貴方があまりにも――」

「う、嘘だ……。嘘だ、嘘だ、嘘だ!! だって、それが――それが本当なら、『俺の番』はもう、この世には――」


 女の話を遮って。どうにか否定しようとしたものの、結局最後まで言えなかった。

 憐れむように俺を見る番の目。なのに、傷口をハンカチで拭ってくれるその手も、声も、番のものじゃない。

 ――それが、全ての答えのように思われて。


 番の視線を感じ始めてから約一カ月。
 視線は感じるものの、決して姿を現すことのなかった俺の番。

 女の話を信じたくはなかったが、説明通りだとすればあの状況にもむしろ納得がいく。


 ケガの応急手当てが終わると、番の目を持つその女は立ち上がった。そしてそのまま立ち去ろうとする女を俺は慌てて呼び止めた。


「ま……待ってくれ!」

「……何か?」

 俺の呼びかけに女が振り返る、


 番の視線。番の目。

 ドクン――途端に跳ね上がる俺の鼓動。

 ソレに後押しされて。俺はどうにか立ち上がると視線の元へと駆け寄った。


「そ…その、せっかくだからお茶でもどうだ!? この一カ月間、君はあんなにも熱心に俺のことを見ていたじゃないか。だからさ、君さえ良かったら」


 そうだ……。番の姿を見るだけなら、ほんの一瞬で良かったはずだ。なのに、この女は毎日毎日毎日、長時間、しかもあんなにも感情むき出しな目で俺を見ていた。


 安堵に。期待に。憐れみに。――嫉妬。


 番でもない女があんなふうに俺を見てくる理由なんて限られている。そして、それは俺にとっては珍しい事でもなんでもない。

 番の視線に振り回されるまで俺はモテモテだったんだ。それこそ日替わりで彼女をとっかえひっかえするくらい。
 見知らぬ女に一目ぼれされるのなんてザラだった。


 俺は番を喪ってしまった。しかし、幸運にも番の目だけはこうして残されている。


 だとしたら。ここで俺がとるべき行動はただ一つ。


「死んだ番の代わりにお前と付き合ってやっても「お断りします」」

 ―ギロリ――…


 強めの口調とともに、刺すような視線で女から拒絶をされた、正直、声音の冷たさよりも、軽蔑するような番からの眼差しに頭が真っ白になるほどの衝撃を受けた。


 ――番からの――拒絶……。

 いや、違う。この女は番ではないのだから番から拒絶されたわけではない。
 ――しかし、憎々し気に俺を睨む目は番の目で。


 目の前の女から説明されたのに。しっかりと事情は理解しているのに。『番の目』が俺に向ける眼差しの冷たさに頭と心が混乱する。


「あ……や…で、も……」

「……先ほど貴方に言いましたよね? そもそも、私はこうして貴方の前に出てくるつもりはなかったんです。ただ、あまりにも――大事な親友の番である貴方があまりにも……屑、過ぎて」

「……え。ク、クズ……?」

「見ていて頭に来たから、貴方にはハッキリと現実を思い知らせてやりたくなったんです。なのに、まさか彼女の目を持っているからといって、初対面の私にまであんな言い方で追い縋ってくるなんて。……本当は、これ以上言うつもりはなかったんですけど。大事な親友の番に変な誤解をされたままなのも困りますので言いますね。先ほどの賭けの話にはまだ続きがあるんです」





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