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16 新たな縁談(シェルタ視点)
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「お前は十分に頑張った。それはこの国の陛下も認めてくださっている。何かしらの行き違いがあったとしても、食事すら与えないなどありえない。全てはあちら側の責任だ。……あの時、君が娘の不遇を知らせてくれなかったらどうなっていたことか。父親として改めて礼を言わせてくれ」
嫁ぎ先での私への仕打ちを思い出し怒りをにじませていたお父様が、険しい顔を解いて私の新たな婚約者に深々と頭を下げた。
「いえいえ。私は彼女からこの国の魅力を聞いて、観光ついでに寄らせてもらっただけですので」
「それでもだ。君の親切心と女神様の御導きで娘は救われたのだ」
「そうよね……まさか、あの時の旅人さんが私の実家に連絡を取ってくれるなんて。少しお話ししただけなのに、よく家名まで覚えていたわね?」
「君との出会いはそれくらい衝撃的だったからね。びっくりしたよ。どう見ても高位貴族の令嬢が下町を一人でフラフラ出歩いて、豪華なドレスをとんでもない金額でぼったくられているのだから。何事かと、思わず声をかけたんだ」
あの時。私に良心的な買取店を紹介してくれた旅人さんは他国の貴族だった。大陸でも有名な商会を経営していて買い付けの為あちこちの国をまわっているときに、危なっかしい私を見かけて助けてくれたのだ。
そして、この国に寄ったときにそれを思い出して、実家に私の窮状を知らせてくれた。彼には感謝しかない。
「しかし、彼をあのまま追い返してしまって良かったのですか? 彼女のことはともかく、この国にとって隣国ルートは重要だったのでは」
「確かに、娘の結婚は国策として隣国ルートを開拓するための王命に近いものだったが、それだけに陛下も今回の件に関しては責任を感じておられる。その証拠にシェルタに新たな戸籍と名を与え、娘の死を偽装するのに力を貸していただけただろう? なあ、『シェル』?」
「はい。お父様。ふふ、生まれ変わった気分ですわ」
「うむ。なあに、隣国との取引についてこちらに有利な条件だけは残せたし、君のお陰でよりよいルートが出来上がったからね。娘を犠牲にしてまであの不幸な婚姻を続ける必要はない。今回の件であちらは王家や女神教会からも目をつけられて、隣国侯爵家の信頼は地に堕ちた。もはや貴族籍を保つのがやっとだろう。娘はよりよい縁にも恵まれて、我々としても万々歳だ」
「お役に立てて何よりです。ですが、良い御縁に恵まれたのは私の方ですよ、義父上」
意地悪く嗤う父に、朗らかに笑う婚約者。
それを見て『シェル』として生まれ変わった私も微笑む。
嫁ぎ先での私への仕打ちを思い出し怒りをにじませていたお父様が、険しい顔を解いて私の新たな婚約者に深々と頭を下げた。
「いえいえ。私は彼女からこの国の魅力を聞いて、観光ついでに寄らせてもらっただけですので」
「それでもだ。君の親切心と女神様の御導きで娘は救われたのだ」
「そうよね……まさか、あの時の旅人さんが私の実家に連絡を取ってくれるなんて。少しお話ししただけなのに、よく家名まで覚えていたわね?」
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あの時。私に良心的な買取店を紹介してくれた旅人さんは他国の貴族だった。大陸でも有名な商会を経営していて買い付けの為あちこちの国をまわっているときに、危なっかしい私を見かけて助けてくれたのだ。
そして、この国に寄ったときにそれを思い出して、実家に私の窮状を知らせてくれた。彼には感謝しかない。
「しかし、彼をあのまま追い返してしまって良かったのですか? 彼女のことはともかく、この国にとって隣国ルートは重要だったのでは」
「確かに、娘の結婚は国策として隣国ルートを開拓するための王命に近いものだったが、それだけに陛下も今回の件に関しては責任を感じておられる。その証拠にシェルタに新たな戸籍と名を与え、娘の死を偽装するのに力を貸していただけただろう? なあ、『シェル』?」
「はい。お父様。ふふ、生まれ変わった気分ですわ」
「うむ。なあに、隣国との取引についてこちらに有利な条件だけは残せたし、君のお陰でよりよいルートが出来上がったからね。娘を犠牲にしてまであの不幸な婚姻を続ける必要はない。今回の件であちらは王家や女神教会からも目をつけられて、隣国侯爵家の信頼は地に堕ちた。もはや貴族籍を保つのがやっとだろう。娘はよりよい縁にも恵まれて、我々としても万々歳だ」
「お役に立てて何よりです。ですが、良い御縁に恵まれたのは私の方ですよ、義父上」
意地悪く嗤う父に、朗らかに笑う婚約者。
それを見て『シェル』として生まれ変わった私も微笑む。
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