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5 妻の日記 1

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○月×日
 どうしてこんなことになってしまったのかしら。
 最初はお義母様にちょっとした嫌味を言われるくらいだった。でも、それがどんどん酷くなってきて……外でもあることない事言いふらされて貴族の間で私の悪評が広まり、お茶会や夜会で孤立してしまった。そのことを相談したくても、旦那様はお忙しいから帰りも遅くお仕事の邪魔をするのも悪いし……。
 仕方がない、もう少しだけ自分で頑張ってみよう。

○月×日
 私に出されるお料理だけおかしい。実家ではこんなもの食べたことがない。味もしょっぱすぎたり甘すぎたり……もしかして遊んでいる? まさかそんなこと――ないわよね? 

○月×日
 使用人が私と同じ物を食べていた。と、いうより私に使用人と同じ物が出されていた。この国では嫁はそういうものなのかしら……? だとしたら、我慢するしかないわよね。
 お義母様は使用人とは別の物を食べていらっしゃるのだけど……ああ、いけないわ。人の食事を羨まし気に見つめるなんてはしたない。

○月×日
 どんどん味付けがおかしなことになって、食べるのがつらくなってきた。でも、それを伝えるとそんな筈はないと言われるし、使用人たちも同じ物を美味しそうに食べている。
 私の味覚がおかしいの? 残すと嫌な顔をされてしまうからどうにか飲み込んでいたけれど、それも限界だわ。

○月×日
 旦那様にそれとなく相談したけれど、お疲れみたいで相手にしてくれない。この位の事で音を上げる私が弱いのかしら? 旦那様がお帰りになられるときは皆と同じものが食べられるから何とかなっていたけれど、最近は城に泊まられることが増えてきたし……三食出されていたのが今は二食。しかも、食事はどんどん酷くなる一方よ。毎日の事だけにとてもつらいわ。

○月×日
 お義母様が私を無視する。嫌われているかもと思っていたけど、やはりそうなのね……。そんなお義母様の様子を見て、使用人達の私への態度も雑になってきている。流石にこんなのおかしいわ。
 せめて、お料理だけでも飲み込めるものにしてもらわないと。

○月×日
 思い切って料理人に直接相談をしたらお義母様に嫌味を言われた。久しぶりにお声を聞いたわね。
 うちの料理人に文句があるなら食べる必要はない――と言われ、まったくお食事が用意されなくなってしまった。

○月×日
 旦那様に相談したい。でも、今は王太子殿下と一緒に各国を回られているから連絡先が分からない。実家から持ってきた日持ちのするお菓子を食べて飢えをしのいでいたけれど、ついにそれも無くなった。他国に嫁ぐ私に『ホームシックになったらこれを食べなさい』とお母様が持たせてくれたものだったのに。

○月×日
 祖国が恋しい。優しい使用人が懐かしい。

○月×日
 結婚はやめて別の方に嫁ぐべきだったのかしら……でも、小さい頃からお手紙をやり取りしていた旦那様に恋をしていたし、他の男性に目を向けた事なんてなかった。
 だけど、旦那様の方は私がお嫌いだったのかしら?

 私は小さい頃から旦那様と結婚をするのを楽しみにしていたのに、ああお腹空いた……嫌だわ、私ったらはしたない。これでは嫁失格ね。お義母様のおっしゃる通りだわ。

 だとしたら――私はこの国の人間にはなれないのかもしれないわね。




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