5 / 18
5 妻の日記 1
しおりを挟む○月×日
どうしてこんなことになってしまったのかしら。
最初はお義母様にちょっとした嫌味を言われるくらいだった。でも、それがどんどん酷くなってきて……外でもあることない事言いふらされて貴族の間で私の悪評が広まり、お茶会や夜会で孤立してしまった。そのことを相談したくても、旦那様はお忙しいから帰りも遅くお仕事の邪魔をするのも悪いし……。
仕方がない、もう少しだけ自分で頑張ってみよう。
○月×日
私に出されるお料理だけおかしい。実家ではこんなもの食べたことがない。味もしょっぱすぎたり甘すぎたり……もしかして遊んでいる? まさかそんなこと――ないわよね?
○月×日
使用人が私と同じ物を食べていた。と、いうより私に使用人と同じ物が出されていた。この国では嫁はそういうものなのかしら……? だとしたら、我慢するしかないわよね。
お義母様は使用人とは別の物を食べていらっしゃるのだけど……ああ、いけないわ。人の食事を羨まし気に見つめるなんてはしたない。
○月×日
どんどん味付けがおかしなことになって、食べるのがつらくなってきた。でも、それを伝えるとそんな筈はないと言われるし、使用人たちも同じ物を美味しそうに食べている。
私の味覚がおかしいの? 残すと嫌な顔をされてしまうからどうにか飲み込んでいたけれど、それも限界だわ。
○月×日
旦那様にそれとなく相談したけれど、お疲れみたいで相手にしてくれない。この位の事で音を上げる私が弱いのかしら? 旦那様がお帰りになられるときは皆と同じものが食べられるから何とかなっていたけれど、最近は城に泊まられることが増えてきたし……三食出されていたのが今は二食。しかも、食事はどんどん酷くなる一方よ。毎日の事だけにとてもつらいわ。
○月×日
お義母様が私を無視する。嫌われているかもと思っていたけど、やはりそうなのね……。そんなお義母様の様子を見て、使用人達の私への態度も雑になってきている。流石にこんなのおかしいわ。
せめて、お料理だけでも飲み込めるものにしてもらわないと。
○月×日
思い切って料理人に直接相談をしたらお義母様に嫌味を言われた。久しぶりにお声を聞いたわね。
うちの料理人に文句があるなら食べる必要はない――と言われ、まったくお食事が用意されなくなってしまった。
○月×日
旦那様に相談したい。でも、今は王太子殿下と一緒に各国を回られているから連絡先が分からない。実家から持ってきた日持ちのするお菓子を食べて飢えをしのいでいたけれど、ついにそれも無くなった。他国に嫁ぐ私に『ホームシックになったらこれを食べなさい』とお母様が持たせてくれたものだったのに。
○月×日
祖国が恋しい。優しい使用人が懐かしい。
○月×日
結婚はやめて別の方に嫁ぐべきだったのかしら……でも、小さい頃からお手紙をやり取りしていた旦那様に恋をしていたし、他の男性に目を向けた事なんてなかった。
だけど、旦那様の方は私がお嫌いだったのかしら?
私は小さい頃から旦那様と結婚をするのを楽しみにしていたのに、ああお腹空いた……嫌だわ、私ったらはしたない。これでは嫁失格ね。お義母様のおっしゃる通りだわ。
だとしたら――私はこの国の人間にはなれないのかもしれないわね。
424
お気に入りに追加
1,708
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・
月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。
けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。
謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、
「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」
謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。
それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね――――
昨日、式を挙げた。
なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。
初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、
「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」
という声が聞こえた。
やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・
「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。
なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。
愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。
シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。
設定はふわっと。
真実の愛は素晴らしい、そう仰ったのはあなたですよ元旦那様?
わらびもち
恋愛
王女様と結婚したいからと私に離婚を迫る旦那様。
分かりました、お望み通り離婚してさしあげます。
真実の愛を選んだ貴方の未来は明るくありませんけど、精々頑張ってくださいませ。
婚約解消したら後悔しました
せいめ
恋愛
別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。
婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。
ご都合主義です。ゆるい設定です。
誤字脱字お許しください。
二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる