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8 さようなら王子様

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「……にゃん!?」

「ほら、早く逃げて!!」


 地面におろして、早く逃げるように言っても王子様は動かない。私の足元でにゃあ、にゃあと激しく抗議をしてくるが、このまま邸にいたら王子様が殺されてしまう。


「お願いだから、早く行って! いい子だから。ね? お父様は妹を傷つけた王子様を絶対に許さないわ。もし捕まったら王子様が殺されちゃう」



「…おいっ! お前が猫をけしかけ妹に怪我をさせたと聞いたが本当かっっ!!」

「まずいわっ、王子様ほら早く! お願い、私は大丈夫だからっ!!」


 ドカドカと。大きな足音と共に背後から近づいてくる声に慌ててそう叫ぶと、ビクッと身体を震わせた王子様が敷地の外に向かって一目散に駆け出した。

 それを見てホッとした途端。
 私の頬に衝撃が走りそのままに壁にぶつかった。

 どうやら怒った父に殴られて吹っ飛ばされたようだ。広がる血の味に口を手で拭うと鮮血が付いた。殴られた衝撃で唇を切ってしまったらしい。

 壁にぶつけた頭が痛い。ジンジンと唇がしびれる。

 足りない食事で栄養不足だったせいだろうか。
 吐き気と共にクラリと回るような眩暈がしたと思ったら、そのまま徐々に意識が遠くなっていった。



「お父様ぁ……私、猫に引っ掻かれた手が痛いわ……。ぐすん、ぐすん。……お姉様なんて、このまま死んでしまえばいいのに……」

「…ああ、まったくだ! 私の大切な娘を傷つけるなんて、絶対に許せん……」



 意識を失う前。
 妹と父のそんな会話が聞こえてきた。



 どうやら父にとって、私は娘でもなんでもないようだ。父にとっての娘は義母との子供である妹だけで、私は家に入り込んだ野良猫とまったく一緒。



 そして最後に私の目に映ったのは、父に抱きしめられて大切そうに守られる妹の姿。



 それを何となく眺めながら――――。



 私はすっかりと怪我が治り、この邸から元気に逃げていく王子様の姿を思い出して――ふわりと微笑んだ。





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