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番外編
1 もう一人のフェデルタ
しおりを挟む私の名前はフェデルタ。とっても貧乏な伯爵令嬢だ。
私の家には小さな兄弟がたくさんいて、そんな家族の生活を支える為に私が売られることになってしまった。
仕方がない。うちの領地はとても狭く、父は才能豊かではあるのだが、あまり商才がないのだ。
風の噂で聞いた話によると、私のように親から売られてしまった存在はたとえ相手に見初められての御縁だったとしても、飽きられたり少しでも見栄えが悪くなるとポイっと捨てられてしまい、幸せになれないことも多いのだそうだ。
――が、私は幸運にも買われて行った先でとても愛され大事にされた……らしい。
らしい、としか言えないのは私にはその頃の記憶があまりないからだ。
その間、私も可愛がってくれた誰かを愛していたような気もするし、愛されていたのもなんとなくは覚えているのだが、それがどこの誰かはよく分からない。
仕方がない。私が私であると意識がハッキリしだしたのはこうして家に戻って来てからなのだ。
今まで愛されていたらしいけれど、突然実家に帰された今は何もする気が起こらない。
心にぽっかりと大きな穴が開いてしまったかのような、とてつもない喪失感を覚えるまま何となく実家で無気力に過ごしていたら、いつの間にか私には身の回りの世話をしてくれる侍女が出来ていた。
おかしいわね。我が家はお父様のせいで家族を売らなければいけないくらいとっても貧乏なのに。
世話をしてくれる侍女の見た目は悪くない……が、傾国級の美人を見慣れているせいか特別美人といったわけでもなく、容姿はごくごく普通。
だからかしら。なんとなく親近感を覚えるし、身を任せるにあたっての抵抗感もないから不思議だわ。自分が自分の世話を焼いている……みたいな?
そんな不思議な侍女は私をお風呂に入れてくれたり。
食事の世話をしてくれたり。
甲斐甲斐しく私の面倒を見てくれるものの、侍女はあまり器用ではないのかたまにとんでもないミスをしでかすことがあった。
……が、彼女に悪意はない。
どうやら侍女は体調が悪く、あまり身体が上手く動かせないようだ。
それでも半年もたつ頃には仕事にも慣れて来て、何でもそつなくこなすようになっていた。初めのころとは動きからして違う。
……人間って成長するものなのね。体調が戻ったみたいで良かったわ。
そして侍女の仕事が上手になるにしたがって、以前にもこんな風に誰かに世話をされていたような気がしてきた。
……しかも、もっともっと丁寧に。
私はほとんど過去を覚えていないのに不思議だわ。
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