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19 高鳴る鼓動

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「ご……ごめんなさい!!!」

 公爵様そっくりのお人形を前にして固まってしまった公爵様の腕の中から抜け出して。
 私は深々と頭を下げて謝罪した。

 人形師に公爵様の症状にも効果があるマッサージを習ったこと。

 人形師から本物と体格が近い人形で練習をした方がいいと言われて、公爵様にもらった大金で公爵様ソックリの人形を作ってもらったこと。

 人形を使って毎日マッサージの練習をしていたこと…………。

 見られてしまった以上は仕方がないと、私はこれまでの事情を全て話した。


「公爵家に戻った後も、毎日この子で練習を続けていたんです。人形師から習ったマッサージは効果があるけれど、あまりやりすぎるのも良くないと言われて……でも、何かやっていないと落ち着かなくて。それなら少しでも効果が上がるように、と毎日の朝のマッサージの後にこうして復習を兼ねた練習をしていました。人形だったらやりすぎるとかないから、だから――」

「……キスしていたように見えたけど」


 しっかり見られてたー!!!!


「ご…ごめんなさいっ!! あああ、あの、この子公爵様にソックリだから触れてマッサージしているうちにあの頃を思い出して切なくなって、だからつい、本当にごめンンッ……」


 勝手に公爵様ソックリの人形を作って触りまくっていたとか未遂とはいえ口づけとか、気持ち悪いと思われたらどうしよう、と必死になって謝っていたらその唇を本物の公爵様に塞がれた。

 謝罪の言葉が公爵様の中に溶けてその先は言えず、言葉が完全に止まったところでようやく唇が離れた。


「謝らないで。あのお金は君の幸せを願って渡したものだ。まさか、そんなことに使うとは思っていなかったから驚いたけど。君は私の為にその人形を作ったんだね。でも、どうして? 私は毎晩君にひどいことをしていたのに」

「ひどいだなんて……公爵様はごく自然に私を愛してくれました。メイドにお飾りのお人形だと言われて、他に好きな人がいるのかも…と落ち込んだりもしたけれど、公爵様はそれを跳ね返すくらい毎日毎日毎日私に愛を囁いてくれて……。信じられないかもしれないけれど、私は自分が人形にされたことに気がついていなかったんです。公爵様はそれくらい私を大切に妻として扱ってくださいました。だから私もいつの間にか一人の人間として公爵様を愛していたんです。人形師の元に戻され真実を知ってからも、どうにかして公爵様の元に戻りたかった。たとえ前みたいに愛されなくても、ただの使用人でもいいから大好きな公爵様のお傍にいたくて、だから」

「――そんな寂しいことを言わないで」


 公爵様はそう言うと私を抱きしめた。あまりに力強く抱きしめられて、人形だった頃のように動けない。心臓の音だけが、どちらの物か分からないくらい大きく響いている。




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