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10 短命の公爵家(公爵視点)
しおりを挟む私は産まれた時から体が弱かった。
私が産まれた公爵家には呪いがかけられており、この家に産まれる男は代々、寿命が短いことが多いのだ。
その昔、まだこの国の魔力持ちが魔法を使えていた頃。私の先祖が愛人にうつつを抜かし、婚約者だった女性を捨てたことから報復として『呪い』をかけられたのが原因なのだと言う。
だから公爵家に生を受けた男は結婚適齢期に入るとその呪いが作用して、急激に魔力が暴走する。身体が自らの魔力に耐えられなくなりやがて死に至る運命にあるのだ。
その為、公爵家では代々多産を義務付けられている。命が尽きるその寸前まで子作りに励み、他家よりも極端に短いサイクルで爵位を次代へと繋ぐのだ。
幸いか禍か。呪いは女性には発症しない。
そのため私の母親は父親を婿に取り、数多くの子を残した。他家に出れば男子を産んでも呪いからは解き放たれるため、母親は娘たちだけは別の貴族の元へと嫁がせた。
そして、呪いを身に持つ残った兄弟のみで家を守ることになった。多くの兄弟姉妹の中で、私はその末っ子だ。
母親亡き後は兄達が公爵家を守り、全員が呪いに抗えず死んでいった。
呪いは周囲には『病』として伝えられ、今に至る。
嫁にも行かず婿をとり、呪われた公爵家を支えた母親の頑張りは認めるが、ここまでして残す爵位にどれほどの価値があるのだろうか。
母亡き後に残された兄弟全員で話し合い、私達の代でこの公爵家は終わらせることにした。そのため、後を継いだ兄達は婚姻を敬遠し、たとえ婚姻したとしても誰一人子をなしていない。
そして、とうとう私の番が来た。
私は魔力量が多いせいか、兄達よりほんの少し早めに症状が出始めていた。そのため、兄達と違い社交の場にはいっさい顔を出していない。引継ぎはひっそりとしたものだった。
公爵位を継ぎ、日々の仕事を淡々とこなすのみの日々。公爵領は豊かだから、それだけで十分回っていく。
私亡き後、領地は国へと返されるのだろう。そのため私がこの公爵家最後の当主となる。
そうなると領地をこれ以上発展させる必要も伴侶を見つける必要もない。私は社交に何の意味も見出せず、公爵となった後も引き続き表舞台には出なかった。
それでも若い男だ。女性への興味もあるしそう言った意味での欲もある。発散するために思い切って娼館へでも行けばよいのだろうが、それもむなしく感じてしまい実行できない。
兄達の中には結婚して伴侶を得た者も居た。
最近になって、その理由が分かった気がする。兄は一人で生きる寂しさに耐え切れなかったのだ。
正直言えば私にだって普通の婚姻に対する憧れもあるし、自分だけの伴侶を得たいとも思う。けれど、子もなく若いまま一人残される義姉の悲しみを見てきただけに、自らのその願いを叶えることは出来なかった。
そんなときに――妻に出会った。
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