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9 ド変態人形師の主張
しおりを挟むどうして公爵様から返品された私をわざわざ元の体に戻したのか。
未だ動かしづらい口でゆっくりと人形師の男にそれを聞けば。
「あ、いえ。正確には返品じゃないんですよ。そりゃあそうですよ。なんせボクが作りあげた一世一代の魂のこもった人形ですからね。持参金付きの里帰りというか……大・満・足していただけたゆえに愛する人形を次のステップへと進ませてあげようという、ご購入者様からの愛ですね。御購入者様である公爵様からは、この子が幸せになれるような未来を与えてあげて欲しい……とこの大金を預かっているんですよ。コレですよ、コレ! ちょっとした爵位ならぽぽんっと買えちゃうくらいの金額ですよ! まー、ボクとしては作製した人形をそこまで愛していただけたら人形師冥利に尽きると言いますか何といいますか……ああ、いえいえ、何が言いたいのかは解りますよ。所詮は物言わぬ人形。ちょろまかしちゃっても人形に口なしでバレないのに……とか言いたいのでしょう? いや、いや、それこそ舐めて貰っちゃ困ります。これはあくまでもこの人形が幸せになるためにお預かりした大金ですからね。そこまで愛される人形を作った製作者としてそこを軽視するわけにはいかないのですよ。――ま☆ いわば『ボクの人形師としてのプライド』……とでも言いますか(キリッ)。それに伯爵家にお支払いした貴女の購入金額はあくまでも貴女を人形にするまで、で完結しているんです。――で、魂のこもった人形を作ることの出来る超天才人形師……いや、まあこのボク! ですがね……の作った人形に、ご購入者様が与えたこの大金はあくまでも人形自身が持つべき資産です。普通の人形ならば製作者である自分が代理人として……とか言っちゃうんでしょうが、そ・こ・は、天才人形師たるボクが作った魂の宿った人形ですからねぇ。その魂に使い道を聞くのが筋ってものでしょう。当然、魂の付け替えなんて、こんなことは違法なので出る所に出れば捕まってしまいますが、そこはまあ、人形師としてのプライドか大罪人として捕まるリスクかっていったら、そりゃあ比べるまでもないでしょう。こんな女神様をも恐れぬ犯罪行為、できれば・なるべくなら・たぶん・我慢できれば、生涯に一度って決めていますからね。そう、ここはプライド圧勝ですよ。その上で言います。ごめんなさい。許してください。反省しています。人形師としての自信もついたのでこれからはなるべく、できる限り近道せずにコツコツやっていくので、あの……何でもするので許してもらえませんかね?」
人が動かしづらい口でゆっくりゆっくり話しているというのに、まー、よく回る口でベラベラベラベラと。
その上禄でもないことばかり言ってくれるものだと頭にきたが……正直、今の私には余計なことをしている時間はない。
それに、妙なプライドの為とはいえ、公爵様が私の為に用意してくれたというこの大金をネコババしたりしなかっただけでも、そこまで悪い人間ではないのかも……いや、やっぱりどう考えてもいい人間ではないな。
ふざけるな、と騎士団に訴え出るのは簡単だけど、それでは公爵様のことまで巻き込みかねない。公爵様は何も知らずに私の魂のこもった人形を購入し……愛してくれただけなのだ。
愛して。
愛した後の面倒を見て。
食事の世話までしてくれた(食べる必要もないし当然食べられないけど)。
自分が人形にされていることに気付かなかったくらい『人』として扱ってくれた。妻として大切に扱ってくれたのだ。
……ただの人形に、こんな大金を用意してくれるほどに。
とりあえず公爵様からのお金は無いよりはあった方がいいと思い受け取ることにした。お金さえあれば、少なくともこんな変態に売られることはなかっただろうから。
でも、今の私が幸せになるためにはお金では買えないものを手に入れる必要がある。
まだうまく動かせない目で人形師を見ると、ビクッと体を震わせた。なので、ゆっくり笑顔の形をとる。なかなか自然に笑えた。自分の意志で動かせる身体があるというのは幸せなことだと思う。少なくとも、私がこれからやろうとしていることには絶対に不可欠だ。
許されるために人形師が何でもすると言うのなら。
それこそ私が幸せになるために、思う存分この変態に力を貸してもらおうじゃないですか。
応援ありがとうございます!
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