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7 お飾り令嬢は思い出す
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きっかけは些細なことだった。
公爵様の邸でボヤ騒ぎがあり、共に寝ていた公爵様は慌てて私を抱き上げて避難をしようとした。けれど、途中で転んで私を落としてしまったのだ。
すぐに火は消し止められて大きな被害もなかったし、私自身はまったく気にしていなかったのだけど。
公爵様はそれがかなりショックだったらしく、寝込みがちになり急激に体調を崩してしまった。
ううん……本当は少し前から公爵様の体調がおかしいのには気が付いていた。抱かれる頻度が減り……添い寝をするだけの日が増えていた。けれど、隣で眠るだけで十分幸せだったのであまり気にしていなかっただけだ。
メイドや使用人の話から、公爵様の持病が悪化しているらしいことが分かった。
この国の貴族のほとんどは魔力を持っている。それも、上位貴族や王族といった高位の者ほど魔力が高い。公爵様もその例にもれずかなり高い魔力を持っているそうなのだが……魔力の循環に何か原因不明の問題があるらしく、幼い頃からあまり長くは生きられないと言われていたらしい。
邸に籠り治療に専念していたお陰でどうにか公爵位を継ぐまで生きることが出来たが……それすら奇跡といえるのだそうだ。
これまで社交の場にあまり出てこなかったのは、そういう事情があったから。
今も決して良くなったわけではない。と、言うか医師の話によると日々悪化をしているのだそうだ。
歳をとるに従い魔力量が増える反面、我が国では魔法がすっかり廃れているせいで、ほとんど魔力の消費が出来ない。そのせいで魔力の循環に問題のある公爵様のお身体には年々負担が増えていく一方らしい。
最近になって、ベッドで臥せっていることが増えたのはそのせいだろう。
知らなかった。こうなって初めて知る事実ばかりだった。私自身は一応上位貴族に入る伯爵家の産まれでも、元が下の爵位からの成り上がり貴族なので魔力はかなり少ない方なのだ。たとえ魔法が廃れていなくたって、使えるかどうか怪しいくらい。
だから、そんな病気が存在することすら知らなかった。
けれど、だからと言って何が変わる訳でもないと思っていた。私は変わらず公爵様を愛しているし、寝込んでいても公爵様は変わらぬ笑顔を私にくれる。
身体の接触など無くたって構わない。お傍に置いてくれればそれだけで。そう、思っていたのに。
「……ごめん。私はもう今までのように君を愛することは出来ない。だから元居た場所に君を戻すよ。勿論、この先君が困ることのないようにするつもりだ」
公爵様にそんな言葉をかけられて。反論もさせてもらえぬまま、私は元の場所へと返された。
そして――そうなってようやく『全て』を思い出した。
私は公爵家へお嫁に来たのではない。
私は生家の伯爵家を出た後に、宣言通り変態の元に売られていたのだと。
公爵様の邸でボヤ騒ぎがあり、共に寝ていた公爵様は慌てて私を抱き上げて避難をしようとした。けれど、途中で転んで私を落としてしまったのだ。
すぐに火は消し止められて大きな被害もなかったし、私自身はまったく気にしていなかったのだけど。
公爵様はそれがかなりショックだったらしく、寝込みがちになり急激に体調を崩してしまった。
ううん……本当は少し前から公爵様の体調がおかしいのには気が付いていた。抱かれる頻度が減り……添い寝をするだけの日が増えていた。けれど、隣で眠るだけで十分幸せだったのであまり気にしていなかっただけだ。
メイドや使用人の話から、公爵様の持病が悪化しているらしいことが分かった。
この国の貴族のほとんどは魔力を持っている。それも、上位貴族や王族といった高位の者ほど魔力が高い。公爵様もその例にもれずかなり高い魔力を持っているそうなのだが……魔力の循環に何か原因不明の問題があるらしく、幼い頃からあまり長くは生きられないと言われていたらしい。
邸に籠り治療に専念していたお陰でどうにか公爵位を継ぐまで生きることが出来たが……それすら奇跡といえるのだそうだ。
これまで社交の場にあまり出てこなかったのは、そういう事情があったから。
今も決して良くなったわけではない。と、言うか医師の話によると日々悪化をしているのだそうだ。
歳をとるに従い魔力量が増える反面、我が国では魔法がすっかり廃れているせいで、ほとんど魔力の消費が出来ない。そのせいで魔力の循環に問題のある公爵様のお身体には年々負担が増えていく一方らしい。
最近になって、ベッドで臥せっていることが増えたのはそのせいだろう。
知らなかった。こうなって初めて知る事実ばかりだった。私自身は一応上位貴族に入る伯爵家の産まれでも、元が下の爵位からの成り上がり貴族なので魔力はかなり少ない方なのだ。たとえ魔法が廃れていなくたって、使えるかどうか怪しいくらい。
だから、そんな病気が存在することすら知らなかった。
けれど、だからと言って何が変わる訳でもないと思っていた。私は変わらず公爵様を愛しているし、寝込んでいても公爵様は変わらぬ笑顔を私にくれる。
身体の接触など無くたって構わない。お傍に置いてくれればそれだけで。そう、思っていたのに。
「……ごめん。私はもう今までのように君を愛することは出来ない。だから元居た場所に君を戻すよ。勿論、この先君が困ることのないようにするつもりだ」
公爵様にそんな言葉をかけられて。反論もさせてもらえぬまま、私は元の場所へと返された。
そして――そうなってようやく『全て』を思い出した。
私は公爵家へお嫁に来たのではない。
私は生家の伯爵家を出た後に、宣言通り変態の元に売られていたのだと。
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