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4 お飾り令嬢は意地悪メイドに奪われる
しおりを挟む「フン! こっちを見ないでよ。どきなさい、気持ちが悪い」
今日もメイドから暴言が吐かれる。サンドバッグのように扱われる私。流石に身体に傷がついてはまずいと気が付いたようで、突き飛ばされるのはソファーやベッドなど、柔らかい場所のみだ。体はそれで守られるけれど、暴言で心は抉られる。
このメイドは子爵家の出身で、公爵様の正妻を狙っていたらしく私への当たりが特に強い。そのせいか、最近では公爵様が留守じゃないときでもこうしてひどい扱いを受けるようになってしまった。日々のことだけにすごくつらい。
「……あら? あんた、いいモノ持っているじゃない」
ベッドに突き飛ばされた拍子に、公爵様からお土産にもらったネックレスが見つかってしまった。
やめて! 公爵様からのプレゼントなのに――声をあげたいが、抵抗する間もなくメイドに奪われてしまう。
「へー公爵様の御色だわ。素敵……。どう? お飾りのアンタより私の方がよっぽど似合うと思わない? せっかくだから貰ってあげる」
鏡に向かい、取り上げたネックレスを付けると、メイドは肩口までの髪をかき上げてこちらに見せつけてきた。私をさげすむ様な目に怯んで何も言い返せない。
――が、そのとき。
「何をしている」
温度を失った公爵様の冷えた声が室内に響いた。手ずからお茶とお菓子を運んでいる。私と休憩をしようとしていたようだ。
お飾りの私は公爵家の仕事のことなど分からないし公爵様のお話を聞くことくらいしかできないけれど、彼は仕事に疲れるとこうして気まぐれに部屋を訪れて私と休憩することがあった。
休憩にはまだ早い気もするが、領地から戻ったばかりだから少し疲れていたのかもしれない。
「あ、いえ、御主人様。これはその……」
「何故、お前がそのネックレスを着けている。それは私がそこにいる妻に送ったものだ」
「……妻だなんて。所詮はお飾りじゃないですか! 私の方がよほどご主人様を満足させて差し上げられます!! 私はずっと御主人様をお慕いしておりました。だから、どうか……」
もはや言い逃れは出来ぬと悟ったのだろう。メイドはスルリとお仕着せを脱ぎ、あのネックレスをつけたままで公爵様にしなだれかかる。
豊満な肉体が露わになり、嫌でも自分との違いが目に入る。叶う気がしない。確かにメイドの言う通り、彼女との方がお似合いだ。
爵位は私の家の方が上かもしれないが、所詮はお飾り。美しい彼女の方が公爵様には似合っている。
……それでも。
お願いだから……私の目の前で、そのネックレスをつけたままで、そんなことをしないで。たとえお飾りだとしても……私は……公爵様、を……。
(ああそうか)
こんな状況に追い込まれて。私はむしろハッキリとその事実に気づかされてしまった。
例えお飾りでも。
釣り合いが取れていなくても。
――公爵様が私を愛していなかったとしても。
『私は』公爵様を愛しているのだと――。
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