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11 王子の魅了を解いたらキャー♡と言って逃げられた

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…「キャ――♡ キャ――♡」

「アイツは昔から変わらないな。いや、成長した分、声は少し低くなったか」


 なんてことない様子で第二王子殿下の消えた方向へと視線を向ける第一王子殿下。

 何でも。第二王子殿下とシュトルツ公爵令嬢が婚約を結ぶずっとずっと前。幼いながらもシュトルツ公爵令嬢を気に入っていた第二王子殿下が照れてああやって公爵令嬢から逃げ回っていたそうだ。

 周りから見てもその気持ちは駄々洩れで、そんな事があったからこそ第一王子殿下との縁談話は立ち消えになったらしい。政略を結ぶにしても、思い合っている者同士の方がいいだろうと。

 それを聞いてなるほど、と思った。

 偽物とはいえ、今回の魅了魔法は恋愛状態を再現するもの。
 つまり――。


 ……チラッ……チラッ……


 距離を取って柱の陰から公爵令嬢を眺める第二王子殿下。それに気が付いた公爵令嬢が目を向けると、第二王子殿下は「キャ――♡」と言って柱の陰に隠れた。

 落ち着くとそろそろと顔を出して、目が合って、歓声を上げて、また隠れて。その繰り返し。


 そうか。魅了魔法の影響かと思っていたけれど。『コレ』が、第二王子殿下にとっての恋愛状態の基本なのか。


「そんな……だって、今まで一度もそんな事……」

「君は覚えていないかもしれないが、私も父もよく覚えているよ。ようやく穏やかな家族愛が芽生えて落ち着いていたところに、今回の件で婚約者であるにもかかわらず、全面的に自分に協力をしてくれた君に惚れ直したってところかな」

「惚れ……直……」


 真っ赤になって俯く公爵令嬢。しかし。


「……分かりました。そういう事ならば、こんな不毛な追いかけっこは無駄ですわね。ええ、ええ。わたくしも幼き頃より殿下をお慕いしております。ですので――わたくしの全身全霊の本気でもって、見事殿下を捕まえてごらんに入れますわ」

 きっ!! っと、第二王子殿下を視線で捕らえる公爵令嬢。それを合図に「キャ――♡」と言って逃げ出す王子。

 この日を境に、公爵令嬢と第二王子殿下の追いかけっこが始まることになるのだが――。優秀な公爵令嬢のことだ。私なんかと違い、勝負がつくのは意外と早いに違いない。

 まるでお手本ともいえる見事なクラウチングスタートを切った公爵令嬢を見てそう思った。


 そして――。


 残された大問題に私は向き合うことになる。




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