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24 運命の番と生存本能(アンスタンside)

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 ――結局。信用を失った商会の経営は傾き、不名誉な噂で結婚すら難しくなった僕は後継を外されてしまった。両親からは毎日のように『それでも獣人なのか、この紛い物め』と責められる。自慢だった耳も尻尾も垂れ下がりっぱなしだ。


 そうして僕は思い出す。


 ラジョーネは僕の耳や尻尾をいつも褒めてくれた。自分にはないから羨ましいと。言葉にしなくても気持ちが見える僕の耳や尻尾が愛しいと。

 たった一人の運命の番も、縋りついた紛い物の番も、商会後継者としての立場も失って。獣人としてのプライドすらもズタズタになって、僕はようやく気が付いた。


 耳も尻尾もないけれど、それでも僕はラジョーネに惹かれていた。それが運命の番だったからなのかは解らない。でも、入学式の日に一目見て惹かれたあの気持ちだけは紛い物なんかじゃなかったんだ。

 やり直せるだろうか。彼女はまだ隣国にいるだろうか。恥も外聞もなく縋りついたら、心から反省したら彼女はもう一度僕を好きになってくれるだろうか。

 運命の番を繋ぎとめることも危機管理能力もない、実の親からすらも見捨てられた紛い物の僕だけれど、獣人としてのなけなしの力を振り絞って考える。



「ラジョーネは隣国に――」



 いる――――気がする。
 だけど――。



「……やめよう」



 僕の、野生の勘がそっちはやめろと言っている。

 両親はこうなったら何があってもラジョーネを連れ戻せと言っているけれど、一緒に来てくれるとは思えないし、何だか……少しだけ生命の危機を感じるのだ。

 それに何より――無理矢理ラジョーネを連れ帰ったところで、僕の両親のもとで彼女を幸せにできるとは思えない。

 だから――。

 いっそ一人になって、人間国でやり直すのはどうだろう。隣国とは正反対になっちゃうけれど、きっと人間国にはラジョーネみたいな子がいっぱいいる。

 耳も尻尾もいらない。
 紛い物でもいいから、番じゃなくてもいいから、今度こそ僕だけの幸せを探そう。



 隣国とは遠く離れた空の下で。僕の大切な運命の番が本物の幸せを手にすることを祈るくらいは許されるだろうか――。




 考え事に夢中になっていた僕は気付かない。


 僕が乗り込んだ人間国へと向かう馬車のはるか後方で。
 安堵したようにホッと息を吐いて、キラリと光るものをそっと懐に仕舞う黒いローブ姿の怪しい人影がいたことに――――。




(終)


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