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21 獣人クォーターの選択と『人間の番』

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 夏休みに入ると私とパーティング君は隣国へと旅立った。

 隣国での学校選びや住むところの手配、家族の説得に至るまで、パーティング君がすべての準備を整えてくれた。

 他国に行くとなればそれなりに面倒な手続きが発生するはずなのだが、彼には色々な伝手があるらしい。パーティング君と共に隣国へ入国した際に、隣国のお偉いさんがわざわざ彼を出迎えていた様子からもそれが察せられる。


「……パーティング君って、もしかして貴族なの? 私なんかが気軽に口を聞いていい身分じゃないんじゃあ……」


 馬車の中で怖気づいて軽く距離をとろうとすると、その分だけ距離を詰められた。


「ラジョーネは何も気にしなくていいよ。どうせ母国には二度と戻らないし。あと、出発する前に俺の事は名前で呼んでって言ったよね?」

「リーベン君」

「『君』も要らないんだけど……まあいいか」


 パタパタパタ……名前を呼んだだけで激しく揺れる憧れのしっぽから私は目を離すことが出来ない。


 隣国でも色々あったけど、パーティング君はずっと傍に居てくれたし私の事を守ってくれた。

 大好きな父や祖父の、母や祖母に対するソレを思わせるような彼の行動に、私の胸は高鳴りっぱなしだった。両思いになって彼と付き合うようになるまでにそう時間はかからなかった。

 そして――私は在学中にプロポーズをされて、隣国の学校の卒業式には彼の婚約者という立場で出席した。その時に彼から贈られたドレスや装飾品を見て更に例の疑惑が深まる。


「……リーベン君て、王族…だったりしないよね?」

「ラジョーネはそんなこと気にしなくていいよ。どうせ母国には二度と戻らないし。あと、『君』ってつけたらキスするって言ったよね?」

「ちょ、リーベン君……リーベ…んっ」


 名前はぺろりと食べられて声にならなかった。




 大きな図書館がある隣国は私にとって天国のような場所だった。学校を卒業して司書の仕事に就いた私は毎日たくさんの本に囲まれている。パーティング君へお薦めする本をこっそりチェックするのが私の密かな楽しみだ。

 時折。母国から情報が入ってくる。


 副会長のジュリアさんが番と出会ってしまい、卒業式でアンスタンが大々的に婚約破棄をされたとか。

 アンスタンが『二度も番を見誤った間抜けな獣人』扱いされているとか。

 醜聞のせいでお嫁さん探しに苦労しているとか、番軽視の姿勢を問題視され、獣人の顧客に見限られて実家の商会の経営が傾いているとか、何とか……。


 雑音が色々と入ってくるけれど、今の私には今日の夕飯のメニューの方が大切だから気にならない。

 図書館は情報の宝庫だから、料理のレシピから『運命の番』に関する知識まで、何でもかんでも揃っている。

『運命の番』は同種族が一番多くて、次に他種族の獣人。そして――ごく少数のみ、相手が人間の場合があるらしい。

 番が絶対の獣人だけれど、何かの運命の巡り合わせで私達のように番以外の相手を選ぶことがあるそうだ。

 かなりのレアケースだが、その場合には獣人の理を上回る愛を貫いたことに対する女神様の恩情で、転生する際に特別な祝福を受けた『人間の番』が誕生するとか何とか――。


 それが本当だとしたら。


 私の両親や祖父母は――。
 来世での私達は――――。


 なかなか興味を惹かれる内容ではあるけれど、私は番のことが書かれた本を元の場所に戻して料理本を手に取った。

 今日は大切なことを伝えなければならないから、旦那様の好物を作るつもりだ。それでいて、私のお腹に問題ない物を選ばなくては。


「ラジョーネ。迎えに来たよ」


 大好きな旦那様に名前を呼ばれて。私は見えないしっぽをブンブン振って、これからパパとなる大好きな彼に飛びついた。




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