【完結】後悔するのはあなたの方です。紛い物と言われた獣人クォーターは番の本音を受け入れられない

２０ 紛い物の番（アンスタンside）

「運命の番に逃げられたですって！？　しかも、番持ちの家系だった！？？　それを逃がすなんて、貴方はいったい何をやっているの！　まったく獣人の風上にも置けないわ！！」

「……これじゃ、お前をうちの商会の後継者に据えるのも考え直した方がいいかもしれんな」


　勝手な両親はラジョーネが番持ちの家系だったことを知ると、あれだけ交際を反対していたにもかかわらず、手のひらを返して彼女に逃げられた僕を無能扱いしてくる。

　仕方なく――僕は遊び相手の中から両親が一番気に入っていた貴族の娘を『真実の番』として昇格させた。一度は別れた生徒会副会長のジュリアだ。冷たく突き放して捨てた後だけに少々手こずったけれど、僕にはもう後がない。このままでは運命の番だけでなく、商会の後継者としての立場まで失ってしまうのだ。

　僕は派手好きで自尊心の塊のようなジュリアに大声で愛を乞い、衆目の中でプロポーズをした。真実の番と言われた彼女はまんざらでもなかったようで、それでどうにか怒りも収まり婚約を受け入れてもらえたけれど――真実の番などと言ってみたところで所詮は紛い物だ。

　ラジョーネが運命の番と判明した後では所詮はむなしいごっこ遊びに過ぎない。

　どうしても諦めきれない僕は紛い物の番相手に愛を語らいながらも、ラジョーネの様子を伺った。


　少しでも気にかけてくれないだろうか――。
　もしかしたら焼きもちを焼いてくれるかも――。


　そんな期待は空しく空振りして、腹立ちまぎれに『番と嘘をついて恋人を騙した獣人モドキの紛い物』呼ばわりしてもラジョーネはどこ吹く風。

　むしろ、ジュリアとの仲を見せつければ見せつけるほどラジョーネの心は僕から離れ、ついには完全に僕を見切ったのかあのむかつく転校生と共に隣国へと旅立ってしまった。

　まさか、僕の番が『せっかく見つかった番に捨てられるような哀れな間抜けヤロー』を選ぶなんて。
　僕自身が『せっかく見つかった番に捨てられるような哀れな間抜けヤロー』になるなんて――。


　嫌だ、ダメだ、そんなことは認めない。僕は本当に騙されたんだ。真実の番はジュリアなんだ。


　必死になってそう思い込もうとすればするほど、本物と紛い物の違いが目について、僕の中でラジョーネの存在がどんどん大きくなっていく。


　それでも両親は貴族との縁を喜んでいる。
　商会後継者としての僕の立場は首の皮一枚で繋がった。

　藁をもつかむ思いで手に入れたこの『真実の番』だけは絶対に手放さないようにしなくては。


　――そう、思っていたのに……。