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15 旅立ち

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 ――実際。
 付き合っていたときはともかくとして、別れた後は番のアンスタンが別の女性とイチャついている姿を見ても、思ったほどの衝撃は受けなかった。

 番に拒絶されると死ぬほどの絶望と苦しみを味わうというけれど、私は人間の血が濃いせいか、獣人としての本能的な苦しみは胸にチクリとした痛みが走る程度だったのだ。

 どちらかというと、周囲の目も気にせず日々繰り広げられるイチャイチャを目の当たりにすることで、ああ自分もこんな生暖かい目で見られていたのか……と妙に冷静になってしまい、そこから生まれる羞恥心の方がキツかったくらいだ。

 そういう意味では、確かに私はアンスタンの言う通り純粋な獣人とは違う『紛い物』なのかもしれない。

 ――けれど。


「別に平気よ。むしろ誇りに思っているわ。異種族婚だった両親や祖父母のお陰で獣人としての血が薄まって、結果として私は本能に流されることなく自らの意志を貫けたのだもの。私にとって『紛い物』は誉め言葉よ」

「……そっか。なら良かった。色々と言われて君まで俺みたいにクラスの中で浮いてしまったからさ。もし君がツライようなら、俺が真実を証言して君の『嘘つき』の称号だけでもどうにかしようと思っていたんだけど」

「それは遠慮しておくわ。番と付き合う、付き合わないで態度を変えるような価値観の違う人たちと話しているくらいなら、その時間を使って卒業までに少しでも多く図書室にある面白い本を読みたいもの。それよりも、貴方のオススメの本でも教えてくれる方がありがたいわ」

「ははは、確かにそうだな。それなら任せてくれ。俺はこれまで色んな国の図書館に通ってきたから、君にお勧めしたい本がたくさんあるんだ」

 いつかの図書室で。彼から言われたことを私がそのまま返すと、パーティング君は楽しそうに笑った。



 アンスタンと別れた後、私はパーティング君と行動を共にするようになった。

 私達が親しいことを知らなかった人達は『紛い物は狙いを変えた』だの何だの、声の大きなアンスタンの言うことを信じて私の事を悪し様に罵ってきたが、ごく少数は図書室で話す私達の姿を見ていたらしく、特に今までと態度を変えることはなかった。
 かといって大多数の者から庇ってくれるわけでもないのだが。

 教室で話していると何かと外野がうるさいので、昼食後はパーティング君と共に図書室へと移動することにしている。

 その途中。


「あの……さ。俺、今度は隣国の学校に転校しようと思っているんだ」




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