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13 番の血脈
しおりを挟む紛い物――ね。
迷いなく。悪びれることなくそう言いきれてしまう彼の姿を見て、私は心底彼の事が気持ち悪いと感じてしまった。
それでも。
「私がアンスタンを愛していたのは間違いないわ。番であると判って、心の底から喜んだのも本当」
「だ、だったら」
「でもね――」
恋人が番と判って、これで相手を誰にも奪われないで済む――と安堵した私の気持ちと。
恋人が番と判って、これで相手を捨てなくて済む――というアンスタンが感じた気持ち。
この二つは似ているようでまったく別の感情だ。
それこそ真逆と言っていいくらいに。
私は番だから貴方を愛していたんじゃない。
純粋に貴方を愛していたからこそ――裏切りが許せなかったし、あの言葉に引っかかりを覚えて傷付いた。
だから。
「番だからといって貴方に選ばれたって嬉しくないし、番だからといって私が貴方を捨てない理由にはならないわ。何が運命の番よ。そんな運命なんて、こっちからお断りだわ」
「……後悔、するぞ。貴族でもなければ純粋な獣人でもない。お前みたいな紛い物なんて、番でもない限り誰も選ばないんだからな」
私の決意が固いことを理解したのだろう。アンスタンは取り繕うことを止めたようだ。私を睨みつけて、ひどい言葉で傷つけようとしてくる。
こんな人だったなんて、とますます心が冷えていく。
後悔なんてするはずがない。後悔するとすればアンスタンの方だ。
なぜなら――。
「後悔なんてするわけないわ。確かに私は貴方が言う通り純粋な獣人ではないわ。お母様は人間だし、お婆様だって人間だもの」
「――ハンッ! だからお前はこんな風に『運命の番』を蔑ろにできるんだよ。人間風情の血が混ざっているから、だから――」
「でもね」
私には誰にも言っていないことがある。
自慢するようなことでもないし、変に騒がれるのも嫌だったから。
獣人にとって最上の喜びと言われる『運命の番』。
女神様の祝福、前世からの導き――いろいろ言われているけれど、獣人は皆、こぞって一族にその祝福を取り込もうと躍起になっている。
番の血は一族に繁栄をもたらすと言われているから。
番の血は更なる番を呼び込むと言われているから。
だから、獣人は『運命の番』の次に、『運命の番を得た者の子孫』と縁を繋ぐことを望むのだ。
平民も貴族も――王族だって例外なく。
とってつけた身分なんかよりも、血に潜む番の祝福の方が勝るから。
「貴方はさっきから馬鹿にしていたけれど。私の両親も祖父母も正真正銘『運命の番』よ。父も祖父もそれぞれ番を伴侶に選んだの。たまたま、運命の番が人間だっただけ」
「な――!?」
そう――私の両親は世に言う『運命の番』というやつだ。人間は運命の番が判らないから、父はそれこそ必死になって母を口説いたそうだ。そして母もそんな父を愛して受け入れた。祖父母の場合も同じ。
いくら運命の番でも、相手が人間の場合は受け入れてもらえなければ番えない。両親も祖父母も、その点では番でありながら恋愛結婚であるとも言えるのだ。
愛して愛されて。
また愛して、愛されて。
無限に続く一方通行ではない思いは夫婦の絆を強くする。そうなれば、もはや『番』はその中の一要素にしか過ぎない
だから我が家はとっても家族仲がいい。
私のこの決断だって応援してくれるはず。
「私は獣人であり人間よ。獣人も人間も家族を大切にするの。だから、いくら番でも家族を馬鹿にする人を私が選ぶことはないし、友達でいるのも無理。今後は学園で会っても二度と私に話しかけないでちょうだい」
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