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12 まさかの理由
しおりを挟む予想もしていなかった言葉に私は固まってしまった。
アンスタンの家は大きな商会を経営している。取り扱っているのは獣人向けの商品が多く――ご家族が獣人としての誇りを大切にしているのは知っていた。ほぼ人間の外見をした私はあまり気にいられていないようで、ご自宅に遊びに行くときにもその空気は感じ取っていた。
当然、そんなご両親から育てられたアンスタンも獣人としての伝統を重視する傾向は強い。
でも――まさか、そんな理由で?
「ウチは、獣人国との繋がりを大事にしているし、代々獣人としての外見にも誇りを持っているんだ。けれど君は――ご両親も人間じゃないか。確かに君のお爺様は純粋な獣人かもしれないけれど、選んだのは人間で――二代にわたって人間の血が混ざった君は外見も中身もほとんど人間だろう。学生のうちは付き合ってもいいけれど、獣人としての血が薄まるのは困るから結婚するのは相応しい人を選ぶようにと両親から厳しく言われていたんだ。だから」
「……私のお父様は人間じゃなくて、獣人ハーフよ」
「分かってる。でも、うちの両親からしたら同じなんだ。獣人としての血を伝えていくためには獣人……もしくはそれに準ずるくらいの相手でないと結婚を認めてはもらえない。それこそ『貴族』とかね。でも、安心してほしい。番と判ったからにはもう大丈夫だ! たとえ君が人間の血が混ざった紛い物でも、喜んで受け入れてもらえるんだよ!!」
キラキラと。希望いっぱいに私を見つめるアンスタンを見て、ああこの人は私とは違うんだと思った。
『番だったから大丈夫』
――じゃあ、私が番じゃなかったら?
浮気されて。
冷たく突き放されて。
――捨てられて。
結局、貴方は私を捨てるつもりで付き合っていたんじゃないの。
優しい優しい、少しお調子者のアンスタン。
どんなに身体の関係を迫られても、結婚するまでは――と私が拒絶をすれば、貴方は困った顔をして受け入れてくれていた。
この国はあまり貞操観念が高いとは言えない。恋人同士になればたとえ貴族だって一線を越えてしまうのが常識となっている。
そんな中で、私の考えを尊重してくれることを優しさだと思っていたけれど。
彼にはそもそも相手がいっぱいいて、私とは結婚するつもりがなかったから一線を越えなかっただけだったのだ。
「――終わりにしましょう」
「え?」
「私達は価値観が違い過ぎる。それに貴方のことはもう信用できないの。だから、私達もう終わりにしましょう? アンスタン――いえ、ラヴィッスマンさん」
「そ、そんな嘘だよな? だって、ようやくこれで両親にも二人の関係を認めてもらえるんだぞ!?」
「私が人間の血が混ざった紛い物でもいいって?」
「そうだよ!」
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