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11 お別れしましょう

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「ああ、よかった……! 生徒会の後、いつも通り迎えに行ったら図書室が閉まっていて、君の姿がどこにも見えないからすごく心配したんだ。学園中探しまわって最後に下駄箱を覗いたら靴が無かったから、慌てて君の家に寄らせてもらったんだ。どうして僕を置いて先に帰ったりしたんだよ!? 愛する君の姿が見えなくて、ずっと生きた心地がしなかったんだぞ!」


 その日の夜。
 夕食前にアンスタンは我が家にやってきた。

 親に呼ばれて応接間に入ってきた私を見るなり、アンスタンはソファーから立ち上がってまくし立ててくる。

 心配して探し回ったと言う言葉に嘘はないのだろう。いつもしっかりと整えられている彼の髪型が今は少し乱れている。

 それを、どこかぼんやりと眺める私。


「……図書室に張り紙がしてあったから事情は分かっている。でも、先に帰るにしても、せめて僕に伝言を残しておいて欲しかったな」

「…ごめんなさいアンスタン。どうしても、貴方の顔を見たくなかったの。だから、私達もう別れましょう?」

「…は……? なっ――何を言……っあ、ああそうか。僕が責めるような言い方をしたから拗ねているんだね。大丈夫、怒ってはいないよ。ただ、番を見失って取り乱した僕の気持ちを解って欲しくて、ついあんな言い方を――」


 一瞬。何を言われたか理解できないような顔をした後、優しい笑顔を浮かべるアンスタン。私が拗ねて別れを切り出したと思っているらしい。

 ただの冗談で私がそんな悪質な発言をすると思っているのなら、彼はこれまで私の何を見てきたというのだろう。
 本気以外で、番相手にそんなことを言う訳ないのに。


「私だってちゃんと伝えようとしたわ。でも図書室が閉まった後、教室で待っていることを貴方に伝えようと思って生徒会室へ行った時に、貴方と副会長の話を聞いてしまったのよ。私とは、ただ物珍しいから付き合っていたんですってね。そして――貴方は私に黙って浮気をしていたのね。しかも身体の関係まで。副会長だけでなく――色んな子と」


 ハ……ッと、アンスタンが息を飲む音がする。


 アンスタンは驚きに目を見開いて。混乱するように左右に視線を揺らしながら、ぁ……とか、や……とか、言葉にならない声を出している。


 その姿に、ああやはりか――と思う。副会長の件以外は正直ただの勘でしかなかったが、アンスタンの態度でその真偽が判ってしまった。
 それくらい長い間、私達は付き合ってきたのだ。


「……ち……、違うんだ! 彼女達はただの遊び相手で――」

「……やっぱり副会長だけではなかったのね」

「…あ……」

「中等部で出会ってすぐに付き合い始めて――5年以上。他の女の子達との噂を聞いても、貴方に違うと言われれば私はそれを信じてきたわ。さぞかし周囲からは滑稽に見えていたでしょうね。私みたいな地味な子と……人気者だった貴方だもの。ああ、もしかして彼女達の方が本命だったのかしら?」

「……っ、違う!! 僕は――僕は、君を一目見た時から、すごく惹かれていたんだ。本気で――好きだったんだよ。君は真面目だからたとえ恋人同士のそういう触れ合いが出来なくても、君の傍に居て話せるだけで何故だか気持ちが落ち着いて幸せで――だから」


 本気で好きだった――と言われて、正直、嬉しい気持ちもある。私だってアンスタンのことを5年間以上も好きだったのだ。けれど、その分どうしようもない怒りも湧いてくる。


「じゃあ、何で他の子とも付き合ったりしたのよ! いつか、番が現れたら私を冷たく突き放して捨てるつもりだったのなら、サッサと捨ててくれればよかったのに! そうしてくれていたら、こんなに苦しい思いをするほど傷付かないですんだのに!」

「仕方ないじゃないか! だって、君は純粋な獣人ではないんだから! 親から君との交際を反対されていたんだよ!!」

「…え………?」




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