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8 恋人の本音

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「仕方ないだろう! 僕は運命の番と出会ったんだ。僕は番を、彼女を愛している。これからは番であるラジョーネだけを愛していくから、君とはもう付き合えない」

「何が『彼女を愛している』よ!! あんな女、恋人と言ったって形だけだって――ああいうお堅いタイプとは付き合ったことがないから物珍しいだけだって、あなた自分で言っていたじゃないの! だから私も他の子も、あんな地味な子相手にしなかったのに!!」


 次々と入ってくる情報に何も考えられなくなって。まるで頭から冷水をかけられたかのように、身体がどんどんと冷えていく。

 指先が震えて身体が上手く動かせない。

 それでも信じられない気持ちで――信じたくない気持ちで無理やり足を交互に動かして、少しだけ開いているドアの隙間から生徒会室の中を覗いたら。

 愛しい人の姿が……そこに…………在っ…て……。





「――――さん。ジュジュマンさん!」

 自分を呼ぶ声にハッと我に返ると、校舎を出た所だった。どうやら恋人の浮気を知って、夢中でその場を離れたようだ。


(あ……いけない、上履き……)


 足元を見ればきちんと外履きに履き替えている。無意識のうちに靴を履き替えて、家に帰ろうとしていたらしい。

 一瞬。先に帰ることを生徒会室に居るアンスタンに伝えた方がいいと考えるも、あの場所には戻りたくない。


 今、彼の顔を見たら吐いてしまいそうだった。



「……ごめんね、パーティング君。せっかく……生徒会室まで送ってくれたのに。私やっぱり今日はこのまま家に……帰ることにするわ」

「送るよ」

「え……でも」

「顔色が悪い。そんなにフラフラしている状態じゃ、無事に家までたどり着けるとは思えない。体調不良なのだから、変に遠慮なんかせずに俺の馬車で家まで送らせてくれ。『困った時はお互い様』……なんだろ? この学園に転校してすぐの頃、図書室の使い方が分からず困っていた俺に、君がそう言って親切に教えてくれたんじゃないか」


 体調不良……か。言われてみれば、先ほどからやたら身体がフワフワとしていて、自分の体重をまるで感じない。こうして会話をしていても、まるで耳に綿でも詰め込まれているかのように、相手の言葉が聞き取りづらくなっている。


 恋人でもないのに一緒の馬車に……とか。
 二人きりで……とか。


 そんな常識的な事よりも、今はとにかくこの場を離れたかった。
 それには、徒歩よりも馬車の方が早いはず――。


 まったく働かない頭でどうにかそれだけ考えて、私はパーティング君からの申し出をありがたく受けることにした。




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