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6 迷い
しおりを挟む私が番であると判明してから、アンスタンは変わった。
もちろんそれまでだって優しかったが、比べ物にならないくらい溺愛してもらえるようになった。いつも、どこからか聞こえてきていた他の女性との噂も鳴りを潜めている。
――そう。番と判明してから……だ。
それに――。
『冷たく突き放して捨てなきゃいけない』
昼休みに言われたあの言葉がどうにも心の中で引っかかって――――。
……いえ――流石に考え過ぎ、よね。
私とは違って明るく人気者のアンスタン。
いつも優しかった彼の真意を疑うなんてどうかしているわ。私みたいな地味な子が、彼のような人と付き合えたことだけで、十分奇跡的なことだったのだもの。
「……勿論よ。私はずっと彼のことが大好きだったんだもの。それが、幸運にも『番』と判明したのだから、安心して彼と添い遂げたいと思っているわ」
「……そう。なら、彼のことは教室で待っていた方がいいんじゃないかな?」
確かに――彼に嫌な思いはさせたくない。番と判明したからといって、急に恋人面して生徒会室に乗り込むのも感じが悪いかもしれない。
今までだって恋人ではあったけれど、生徒会役員ではないからと遠慮をしていたわけだし。恋人として生徒会長である彼の立場も考えないと。
けれど、勝手に待ち合わせ場所を変えて、迎えに来た彼と行き違いになってしまっても困る。何も知らせないで私が待っている筈の図書室が閉まっていたら、それはそれでアンスタンを不快にさせてしまうかもしれないし。
パーティング君の言う通り場所を変えて教室で待つにしても、生徒会室で仕事をしているアンスタンに一声かけてからにした方がいいだろう。
「そうね。でも、とりあえず教室で待つことを伝えに行くことにするわ。……伝言だけしてすぐに生徒会室をお暇すれば、アンスタンのお仕事の邪魔にはならないと思うし」
自分で言っていてどこか白々しく感じるが、どこかでまだ――少しだけ迷っている自分自身に言い聞かせるように、そう言った。
学園で人気者のアンスタンと、真面目なだけが取り柄の目立たない地味な私。釣り合っていないことは最初から分かっていたけれど――だからこそ、親しくなって彼を好きになればなるほど不安になった。
いつか、愛する彼から冷たく突き放されて捨てられるんじゃないか――――って。
そんな彼と番と判明したけれど。
それで選んでもらってすごく安心したけれど。
……私はそれでいいの?
『僕もだよ、ラジョーネ。もし君が番じゃなかったら、愛する君を冷たく突き放して捨てなきゃいけないと思うと辛くて辛くて』
平然とあんなことを言ってのけた彼のことを信じられるの?
『番である』という、ただそれだけで。
この胸に抱いてしまった彼への不信感を、拭い去ることが出来るのかしら――――?
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