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2 ひっかかり

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『冷たく突き放して捨てなきゃいけない』


 流石に私の聞き間違い――よね? そうよ、優しいアンスタンがそんなおかしな発言をする訳がないわ。


「あ、いえ。アンスタンも私と付き合っていてずっと不安……だったのよね?」

「もちろんさ!! 僕に運命の番が現れたらどんなに愛していたとしても、君を冷たく突き放して捨てなきゃいけないだなんて……そんなこと想像するだけでも辛くて、ずっと不安だったよ」


 ……どうやら私の聞き違いではなかったようだ。


「まあ、愛する君が番と判明した以上、いらぬ心配だったけどね」


 ……と、嬉しそうに笑うアンスタン。


 だけど、私は笑えなかった。


「私を冷たく突き放して捨てる……つもりだったんだ? アンスタンは番が現れたら私とは別れるつもりだったのね?」

「え? そりゃ……まだ、運命の番が君だと判明していなかったからね。獣人として番が現れたらソイツを愛さなきゃいけないんだから、恋人とはキッパリ別れなきゃ誠意がないだろ? ……なあ、もうこんな話はやめようぜ? 縁起でもないだろ。今更そんな心配しなくても、僕達は恋人同士で番だったんだからさ。誰かさんみたいに、せっかく見つかった番に捨てられるような哀れな間抜けヤローとは違うんだ。な! そうだよな? パーティング」

 私が発する不穏な空気を感じとったのか、クラスで孤立をしている男子に急に話を振るアンスタン。


「ちょっと……! やめなさいよ、アンスタン。私達の話に彼は関係ないでしょう」

「ハハ、大丈夫、大丈夫。アイツ、いっつも独りぼっちで寂しい奴なんだから、こうして話しかけられるだけで喜んでるって! これも『番』という約束された幸せを手に入れた僕達からの、幸せのお裾分けさ。なあ、パーティング。お前も僕達を祝ってくれるだろ? な?」


 私が止めるのも聞かず、更に相手に絡み続けるアンスタン。絡まれた相手はピクリ、と狼の耳を震わせると、本を読む手を止めてこちらを振り返る。

 長い前髪に隠れて表情は見えないが、口元は穏やかに笑っている。


「……ああ。おめでとう。クラスメイトとして君達二人を心から祝福するよ」


 それだけ言うと、黒髪の男子は前を向き再び本を読み始めた。先ほどの失礼な発言はあまり気にしていないようだ。そのことに少しほっとする。


「ほーら、僕の言った通りだろ?」

「もうっ。やめなさいってば! アンスタンたら、何でいつもそうやってパーティング君に絡むのよ。彼、貴方に何もしていないじゃない」

「ん-? 別にそんなの僕だけじゃないだろ」

「それは……。だとしても、そういうのって良くないわ」

「ハハッ、分かった、分かった。やっぱラジョーネは真面目で優しいなー。きっといい奥さんになれるよ。……だからさ、早く、いっぱい子供作ろうな! ほら、僕達は番と判った訳だし問題ないだろ」

「…………」

「なっ、ラジョーネ?」


 ニコニコと上機嫌のアンスタン。その目からは、今まで以上に逃げられないような熱と圧を感じる。


「授業始めるぞー。そこ、早く自分の席に戻りなさい」

「あっ、やべ」


 先ほど感じたふとした引っかかりと、クラスメイトに対する不快な発言も相まって。

 ちょうど教師が教室に入ってきたのをいいことに――私は彼からの質問には答えなかった。





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