上 下
14 / 15

14 幼馴染の選択(勇者side)

しおりを挟む
 しかし、一度暗殺を失敗したとなるといくら危機感のないキャンディッドでもさすがに警戒をしているだろうし、辺鄙な村では部外者はどうしたって目立つ。そう何度も暗殺者を送り込むわけにはいかない。

 仕方なく真摯に謝罪するふりで毒を仕込んだ花束をキャンディッドに渡そうとしたのだが、突然の突風で花束が近くの沼に飛ばされてしまい、口封じに失敗をしてしまった。

 俺が仕込んだ毒のせいで沼に生息する魚が大量に死んだが、念のために他国から取り寄せた希少な毒を使ったうえに人をやってすぐに証拠隠滅を図ったので、キャンディッドはともかく村の者にはバレていないはずだ。

 ただ、これのせいで俺が直接手を下すことも難しくなってしまった。

 仕方なく俺は王家の威光をチラつかせて村人に脅しをかけた。そのことで居場所を失ったキャンディッドは故郷の村から姿を消した。これでどうにか秘密は守られた。

 しかし、キャンディッドの口を完全に塞がなければ安心は出来ない。念のために適当に罪を捏造して指名手配をかけたが、どうしてもキャンディッドは見つからなかった。



 そして、時が経ち――妻の不倫が発覚したことで、俺は無性にキャンディッドに会いたくなった。

 キャンディッドは妻ほど美しくはないが見れない顔というわけでもない。少なくとも身持ちは固いし、あの女のように俺を裏切ることだけはないだろう。

 指名手配をかけても見つからないことでこれまでは放置していたが、小さな頃から運だけはいいキャンディッドのことだ。その辺で野垂れ死んでいるとは思えなかった。


 こうなってくると、命を奪えなかったことも運命なのかもしれない。


 そう考えた俺は密かにキャンディッドを囲うべく、人を使って彼女の行方を探させた。

 その結果――キャンディッドは最悪な形で俺を裏切っているのを知った。なんと、キャンディッドは姿をくらましている間に魔王の子供を孕んでいたのだ。

 何がどうしてそうなったのかは分からないが、俺を捨てた両親よりも浮気した妻よりも、信じていた幼馴染の裏切りが何より許せなかった。

 力づくで揉み消したとはいえ、キャンディッドは俺の婚約者なのだ。勇者である俺の婚約者が魔王を選ぶなどあっていいはずがない。

 頭にきた俺は国民からの人気が陰ったことでイライラする妻に俺が入手したキャンディッドの情報を流した。

 もう一度魔王を殺せば国民人気も回復する。生まれる前ならば倒すのも容易なはずだ――そうやって甘く囁けば、俺に対し冷めていた妻の瞳に再び熱が灯った。

 そもそも、王女とは魔王討伐という共通の目標があったからこそ結ばれたのだ。だとすれば、新たな討伐対象ができたことでよりを戻すのも当然のことなのかもしれない。

 今では女王となった妻の協力を取り付けて、俺はキャンディッドの捕縛に成功した。このまま放置しておけば腹の子共々命を落とすことになるだろう。

 けれど、もしもキャンディッドが俺を裏切ったことを謝罪し、魔王の子供を自ら手放してくれたら――母体であるキャンディッドの命までは取らずに、俺の愛人として密かに囲ってやってもよいと思っていた。

 だから、わざわざ選択肢を与えてやったのに、キャンディッドはこの俺を拒絶したのだ。


 キャンディッドの裏切りが許せなくて、気が付けば血まみれになるほど殴っていた。それで時期魔王の討伐という当初の目的は達成できたものの、キャンディッド自身も虫の息になっていた。
 せっかく命を守ってやろうとしたのに。いつまでも腹を庇おうとするのが悪いのだ。

 仕方なく俺は兵士に死体の処理を命じた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。 悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。 若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。 『亭主、元気で留守がいい』ということを。 だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。 ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。 昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

(完結)私より妹を優先する夫

青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。 ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。 ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

旦那様は私より幼馴染みを溺愛しています。

香取鞠里
恋愛
旦那様はいつも幼馴染みばかり優遇している。 疑いの目では見ていたが、違うと思い込んでいた。 そんな時、二人きりで激しく愛し合っているところを目にしてしまった!?

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

【完結】不倫をしていると勘違いして離婚を要求されたので従いました〜慰謝料をアテにして生活しようとしているようですが、慰謝料請求しますよ〜

よどら文鳥
恋愛
※当作品は全話執筆済み&予約投稿完了しています。  夫婦円満でもない生活が続いていた中、旦那のレントがいきなり離婚しろと告げてきた。  不倫行為が原因だと言ってくるが、私(シャーリー)には覚えもない。  どうやら騎士団長との会話で勘違いをしているようだ。  だが、不倫を理由に多額の金が目当てなようだし、私のことは全く愛してくれていないようなので、離婚はしてもいいと思っていた。  離婚だけして慰謝料はなしという方向に持って行こうかと思ったが、レントは金にうるさく慰謝料を請求しようとしてきている。  当然、慰謝料を払うつもりはない。  あまりにもうるさいので、むしろ、今までの暴言に関して慰謝料請求してしまいますよ?

【完結】私の婚約者は妹のおさがりです

葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」 サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。 ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。 そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……? 妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。 「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」 リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。 小説家になろう様でも別名義にて連載しています。 ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

処理中です...