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10 再会
しおりを挟むそれから数百年。特にやることもなかった吾輩は残された人間に請われるがまま、『王様』などというものをやることになった。
特に楽しくはないが、キャンディッドを失った喪失感を埋めるにはいい暇潰しだ。無限に湧き出るキャンディッドの愚痴が聞けない分、日々吾輩の愚痴が溜まっていくけどな。
――まったく。人間の政治というものはなんでこんなにも煩わしいのか。
魔王としてなら手っ取り早く、力で相手を屈服させて言うことを聞かせればいいだけなのだが、人間社会ではそうもいかない。いっそ強引に――と心が折れそうになるが、後々キャンディッドにグチグチと言われそうな気がしてそれは我慢をしている。
おかげで常に余計な策略を練らねばならず、力を使い過ぎて吾輩の立派な角がゴリゴリと削られていく一方だ。
それでも吾輩が人間に交じってまで、こんな面倒な国王業を続けているのはキャンディッドを待っているから。
魔王である吾輩のように長い時間を生きる存在は一度死んだらそれまでだが、キャンディッドのようなか弱い人間は寿命が短いかわりに何度でも生まれ変わってくるのだ。
政治は面倒だが、愚かな人間に下手に権力を譲り渡して、吾輩の大事な場所をつぶされては堪らないからな。だったら自分で管理をした方がいい。
しかし、人間にとっては脅威となる場所をそのまま放置するわけにもいかない。
仕方なく、吾輩自らの手で定期的に魔の森に生息する危険な魔物を排除しつつ、兵士達を使って森への出入りを見張らせているのだ。
危ないから魔の森には入らないように国民には再三にわたり警告をしているが、それを無視して侵入するような空気を読まない人間がいるとすれば、それはアイツくらいのものだから。
そして――。
今日。吾輩のもとへ待ちに待った知らせがやってきた。手につかない執務を放り出して、吾輩は大急ぎで懐かしい場所に向かう。
王は王でも吾輩は魔王だからな。弱っちい人間の側近どものお説教なんて、ただの子守歌にしか聞こえない。
そんなことよりも、アイツを危険な場所に放置して延々と愚痴られる方がよっぽど面倒だ。
懐かしい森の中にある、懐かしい住処。
そこにやわらかな火が灯っているのが見える。
ドアを開ければ――――。
「まったくもうっ。魔王様ったら相変わらず迎えに来るのが遅いんだから。またうっかり死んじゃったらどうする気よ。しかも、何? 記憶が戻ってすぐ来てみれば、隣国王女との婚姻話が出ているとかいないとか。……大体、魔王様は昔っから女心ってものが分かっていなくて、グチグチグチ…………」
懐かしい部屋の中に、既にたっぷりと愚痴をため込んだらしいキャンディッドの姿があった。
以前と変わりなく元気に愚痴を言う姿に涙腺が緩むが、吾輩だって負けてはいない。
「まったくお前は! 吾輩の助けも待てぬくらい誰よりも弱っちい癖に、生まれ変わるのにいったいどれだけ時間をかけているのだ! 勇者のせいで荒れた国がすっかり平和になってしまったではないか!! 見ろ、ストレスで無残に擦り減ってしまった吾輩の角を! これでは貴様ら人間と変わらないではないか! ……今まで散々愚痴を聞かされた分、今度はお前に吾輩の愚痴を聞いてもらうからな! 数百年分はため込んでいるから人間の一生分じゃ到底たらんぞ。数回の転生は覚悟するのだな!!!!」
フハハハハァ……! 吾輩の涙交じりの邪悪な高笑いが魔の森に響いた。
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