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8 抜け殻
しおりを挟む「キャンディッド! おい、しっかりしろ! キャンディッド!!」
吾輩の目に入ってきたのは凄惨な光景だった
暗く汚らしい離宮の地下。血まみれの床。――血まみれのキャンディッド。
吾輩が名前を呼んでも。回復魔法をかけても。キャンディッド……だったものが口を開くことはない。あれだけ毎日元気に愚痴を吐いていたのに呼吸音すら聞こえない。
ああ、人間とは何と脆いのか――。
「何だ今の音は!! なっ、貴様何者だ! いったいそこで何を…ぐはあっ!?」
吾輩が地下牢へ直進した際の破壊音を聞きつけてきたらしい兵士を魔法で弾き飛ばし、その胸倉をつかみ上げる。
「……おい。キャンディッドに何をした。答えろ」
「…ひ……!?」
「答えろ」
「わ……わわわ我々は王配殿下のご命令でその女の処分を――許してくれ、俺は王配殿下のご命令に従っただけだ!」
兵士から聞いたところよると、どうやら聖女により新たな予言がなされたらしい。それは――『新たな魔王の誕生が危惧される』というもの。
国民からの信頼を失っていた王家はその打開策として『新たな魔王の討伐』を計画した。それに利用されたのが吾輩の子を宿したキャンディッドだった。
勇者は結婚当初こそ王女と上手くいっていたものの、育ちの違いなどから勇者が王配となる頃には二人の関係は完全に冷めていた。そこで、勇者は昔婚約していたキャンディッドのことを思い出し、密かに愛人として囲うべく動いていたのだとか。けれど、キャンディッドが吾輩の子を妊娠していることを知り、怒って今回の計画を思いついたらしい。
ばかばかしいことに、国民人気を取り戻したい女王との間でこの企みは大いに盛り上がり、冷めていた二人の仲は元に戻ったそうだ。その結果、キャンディッドに懸賞金をかけての捕り物になった。
……なるほど。懸賞金か。どうりで日頃ろくに仕事をしない兵士どもが張り切るわけだ。
聖女も元勇者も――そんな二人に仕える兵士達も、どいつもこいつもクズ過ぎる。
「ほ……本当だ! 我々は言われた通りに動いただけだ! 勇者様にこの女の死体を始末しろと言われて仕方なく……」
「ああ、そうか。死ね」
「……ぁ…………」
情報を聞きだした兵士に止めを刺すと、吾輩はキャンディッドを抱き上げた。こんなかび臭い場所にキャンディッドの身体を置いておいたら後で何を言われるか分からない。
「本当に……本当に、お前の愛した勇者はろくでもないな……」
吾輩の愚痴に返事はなかった。
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