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7 捕らえられたキャンディッド

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「もー、あなた。早くご飯を食べちゃって!」

「うぅ~ん……あと一年………」

「まったくもう。それじゃ生まれちゃうわよ。まったくお父様はダメな魔王様でちゅね~。じゃ、お医者様に行ってくるわね」


 夫婦になったあの日からキャンディッドの愚痴は続いている。

 腰が痛い。疲れた。私の年齢を考えろ。つわりが酷い。

 愚痴を言わなくなったら吾輩に殺されるとでも思っているのか、キャンディッドの口からは次から次へと愚痴が出てくる。子が生まれたら今度は子育ての愚痴が始まるのだろう。

 多分、将来キャンディッドがよぼよぼになって、吾輩の耳をもってしても何を言っているか分からなくなったとしても、それが愚痴だろうということだけは判ると思う。

 泣きながら。怒りながら。どこか投げやりに苦しそうに語っていた勇者の愚痴とは違う吾輩への愚痴。笑顔で語られるキャンディッドの愚痴はうるさいけれど嫌ではない。

 どこか心地よいソレを、最期の瞬間まで聞くのは吾輩なのだと思っていた。


 ――――――なのに。


 昼過ぎに起きて。何やら外が騒がしいと思ったら広場で騒ぎがあったらしい。
 嫌な予感がして吾輩が駆けつけると、町の住人が話しかけてきた。


「ああ、魔王さん! 良かった、ちょうどアンタを呼びに行くところだったんだよ。大変だよ、キャンディッドちゃんが兵士に捕まって連れて行かれちまったんだ!」

「な……っ」

「ほら、早く行きな! 急がないとキャンディッドちゃんがクズ勇者に殺されちまうよ!!」


 話を聞いた吾輩は勇者が住む城へと走り出した。

 このころ。前王が退き聖女だった王女がその跡を継いで女王となり、勇者は王配という立場になっていた。

 贅沢を覚えた勇者は国民に重税を課し、権力を盾にやりたい放題。女王となった聖女も今ではすっかり国民に嫌われて、王家の威信とやらは地に堕ちていた。

 一方の吾輩は町に溶け込み、何だかんだ周囲に正体がバレていた。――が、王族への反発心からか、キャンディッドに頼まれるままに薬を作って人助けとやらをしていたお陰か、吾輩が密告されることはなかった。

 キャンディッドが妊娠中の為、子供に影響が出ては困るからと髪色を変える魔法を控えていたのがまずかったのかもしれない。日頃サボっている見回りの兵士達に運悪く見つかってしまったようだ。


「くそっ、こんなことなら夜遅くまで仕事などせずに、早起きして病院まで付き添ってやればよかった!」


 魔の森と違い、町での暮らしは金がかかる。しかも、ここ数年は勇者どもの悪政のせいで税金が上がる一方だった。その上、子が生まれたら更に金がかかると聞いたので、吾輩は寝る間を惜しんで働いていた。

 治安の悪化と共に傷薬や回復薬の売れ行きは右肩上がりだったが、庶民が薬を買えなくなったら困ると言って、キャンディッドが薬の値上げを渋ったのだ。こんなことならキャンディッドの言うことなど聞かずに、どんどん値上げをしていれば……。


「魔王! あっちだ、あっち! 城じゃなくて、離宮の方に連れて行かれた!」

「離宮に行くならスラムを突っ切った方が早いわ! 治安は悪いけど魔王のアンタなら別に大丈夫でしょ! 早く早く!」

「オイお前ら、魔王の旦那に手出しすんなよ!」

「へいっ! 親分!!」

「魔王様、お薬で僕の弟を助けてくれてありがとう」

「まおーさま、キャンディッドおねえちゃんをたすけて」

「前に盗みに入ったから知ってるぞ。あそこの離宮なら牢屋の位置は……」


 どうやら、キャンディッドに頼まれるままに格安で提供していた回復薬やら毒消し薬やらのお陰で思ったよりも吾輩の評判は良いらしい。次々と情報が入ってくる。

 大まかな位置さえ分かれば、後はキャンディッドと腹の子の生命反応を追える……はずなのだが。

 反応は近いのに、弱い。しかも一人分しかない途切れ途切れのソレに嫌な予感ばかりが増して、吾輩は魔王の力を使っていっきに離宮の地下に囚われているキャンディッドの元まで直進した。




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