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6 嘘から出た実
しおりを挟む町のあちこちにキャンディッドの似顔絵があることに気が付いた吾輩は、彼女の髪を魔法で別の色へと変えた。素敵、嬉しい、こんな髪色に憧れていた、と大喜びのキャンディッド。まったく、吾輩の気持ちも知らないで。
ある日、兵士が家を訪ねてきた。
いつものようにドアを開けたキャンディッドは固まった。
「魔王が復活したらしい。聖女様の予言で魔の森に騎士団が向かったが魔王の姿がない。もしかしたらこの町に潜伏をしているかもしれないから探している。何か知らないか」
どうやら、復活した魔王――吾輩を探して、兵士らが一軒一軒尋ね歩いているらしい。ああ来るべき時が来たか、と思った。
町に長居をし過ぎたのだ。
愚痴を言い終わったら吾輩に殺されるキャンディッドは兵士に吾輩を売るだろう。魔の森を出てすっかり腕が鈍った吾輩。角が育ち切っていない今の状態では、簡単に殺されてしまうかもしれない。
でも、まあいいか――とも思う。
吾輩を兵士に差し出せば、キャンディッドも魔王討伐の立役者として生まれ育った村に戻れるかもしれない。居場所が出来れば吾輩以外にも愚痴を吐ける相手が出来るだろう。
そんな思いで立ち上がり、ゆっくり歩いて吾輩はキャンディッドの後ろに立つ。それに気づいた彼女が振り返って吾輩を見る。
ああこれが最後か。キャンディッドの目にフードを被った吾輩の姿が映る。最後くらいは魔王の証たる吾輩自慢の角を目に焼きつけてもらうかと、フードに手をかけた時に。
「兵士様、御覧の通り我が家は夫と二人暮らしなので何も知りません。部屋の中を見ていただいても構いませんよ。ウフフ、まだ新婚なんです」
と、フードを取ろうとする腕にしがみつき、キャンディッドは吾輩にしなだれかかる。
「そうか、邪魔したな。何かあれば騎士団に報告するように」
「……やれやれ、あと何軒回らなきゃならないんだか。面倒くせーな」
「まあまあ、そう言うなよ。偉大なる我らが王女サマ(笑)が久々に聖女としてのお仕事をなさったのだ。形だけでもやらなくては我々の首が飛ぶ」
「ハハハ、違いない」
と、兵士たちは愚痴を吐きながら帰って行った。
閉じたドアに耳をくっつけて。
兵士たちがいなくなったのを確認したキャンディッドは。
「馬鹿! ドジ!! 目立ちたがり屋!!! 何で堂々と出てくるのよ、兵士に見つかったらどうするのよ!!!!」
と、吾輩に抱きついてきてわんわん泣いた。
どうやらキャンディッドは吾輩を兵士に売るつもりはなかったらしい。それは嬉しかったが悪口を言われるのはムカついたので。
「馬鹿! 考え無し!! 無限愚痴吐き女!!! お前こそ、指名手配されているくせに何を無警戒にドアを開けているのだ!!! 矮小な人間風情が魔王たる吾輩を守ろうなどと千年早いわ!!!!」
「なっ、何よ、何よ! 大体、あんたは小さい頃から……」
言い返したら吾輩に対する愚痴が始まった。
これまで勇者への愚痴を吐き続けていたキャンディッド。
彼女の口から延々と吾輩へのソレが語られるのは感慨深かったが、流石にうるさかったので吾輩の口で塞いでやった。
この日、吾輩とキャンディッドは本物の夫婦になった。
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