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4 魔王の成長と変化
しおりを挟む「それでもね、幼馴染だし結婚の約束もしていたから勇者リキの事は信じていたのよ。雨の日も嵐の日も雪の日も、毎日冷たい川で身を清めて、村の教会で勇者となったリキの無事を祈っていたの。それなのに…」
女の愚痴は止まらない。
吾輩を滅ぼした後、自らの意志で王女と結婚した勇者リキ。
結婚の約束をしていたキャンディッドの口を封じようとしたもののうまくいかず、それならばと権力で村人を脅し、その同調圧力でキャンディッドの口を塞ごうとしたらしい。しかし、勇者は馬鹿だと思う。
キャンディッドに空気を読むような力があれば、わざわざ殺されるのがわかっているのに自ら魔の森に来たりはしないだろう。
そうでなくたって『お前の愚痴は聞き飽きた』という吾輩の意思にいっさい同調することなく、もう三年も勇者の愚痴を嫌がる吾輩に聞かせ続けているくらいなのだからな。
こんな短い付き合いの魔王の吾輩ですらそれが解るのに、共に育った人間の勇者はいったいこの女の何を見ていたんだ?
※※※※※※※
魔の森が持つ強い魔力にあてられたのだろうか。キャンディッドが倒れた。
この頃には吾輩はキャンディッドと同じ年頃まで身体が成長していた。
吾輩が殺す前に勝手に死なれたら堪らない。吾輩はフードを目深に被って魔王の証たる頭の角を隠し、倒れたキャンディッドを連れて人間が住む町へと移り住んだ。
別に深い意味はない。ただ、ここまでキャンディッドの愚痴に耐えた吾輩の年月を無駄にしたくなかっただけだ。
町で暮らし始めるとキャンディッドはあっという間に回復した。毎日、元気に勇者の愚痴を言うキャンディッドの姿に吾輩はホッとする。
魔の森とは違い町での暮らしはやたらと金がかかるので、吾輩は魔法薬を作って生計を立てることにした。吾輩が作る魔王印の魔法薬は効果が高いので、人間どもには飛ぶように売れる。
フフン。魔の森で暮らしている間、すぐに体調を崩す弱っちいキャンディッドに与えるために、彼女が話す勇者の愚痴を聞きながら人間用の薬の研究と実験を繰り返していたからな。効いて当然だ。
ちなみに一番人気は心が静まるお茶だ。
その効果は吾輩の折り紙付きだ。なにせこれを飲ませるだけで、キャンディッドの愚痴が20分は短くなるのだからな。
もうこれがなかったころには戻れない……吾輩が。
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