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2 勇者の仕打ち
しおりを挟む「……それでですね、リキってば最初はいじめられっ子だったんですよ。もともとは捨て子だった彼が、村の子たちに追い回されているのをいつも私が匿ってあげていたんですよ。リキの方も『俺、大好きなキャンディッドを守れるくらいに強くなりたい』とか言っていたのに、この仕打ち! 酷いと思いませんか、思いますよね!? 私と婚約していたのが王女様にバレたらまずいってんで、口封じを謀ってきたんですよ。恩知らずにもほどがあるわよ。あの、嘘つき勇者!」
「それは……酷いな」
いや、割とマジで。
「でしょう!? 事情を知らない村のみんなからは私が嘘つき呼ばわりされて、事情を知っている友達は友達で王族から目をつけられたら困るからって段々と話を聞いてくれなくなって。気付けば私一人が村で孤立して、両親すらも娘の存在を無視するようになっちゃって……ぐすぅっ」
「な……泣くな、泣くな! ほら、キャンディッド、本日の愚痴はここまでだ!! 続きは今度聞いてやるから、今日のところはキレイな花でも見に行こう! な!?」
「…花、ですかぁ……? 私の暗殺に失敗したリキが、『キャンディッドに伝えたいことがある』とか言って、私に謝罪するフリして棘に毒を塗った両手いっぱいのバラの花束をくれた時みたいに……? あの時の花束もすごくキレイで……見た目だけは」
「勇者の奴、本当に碌でもないな!?」
いや、違う吾輩はそんな卑怯なマネはしない! 勇者とは違うのだよ、勇者とは。何と言っても魔王だからな……とか何とか宥めつつ、吾輩は魔の森に生息する魔花の花畑にキャンディッドを連れて行った。
咲いているのは魔力で少し変質しただけの、特に毒にも薬にもならない名前も知らない雑草たちだ。矮小すぎて、命を刈り取る価値すらない。ただ、キレイな花を咲かせるだけの無意味な命。
「すごい! すごくキレイだわ、魔王様! 魔の森の中にこんな光景が広がっているなんて!! こんな不思議な花、生まれ育った村では見たことないわ。素敵!!」
「やれやれ、やっと泣き止んだか」
何が楽しいのかキャンディッドは咲いている花の匂いを嗅いだり寝転んだり、何やら編み込んで吾輩の頭の上に乗せてきたりと上機嫌だった。『村で見たことのない花』というのが良かったらしい。
キャンディッドの話を聞いている限り、村には勇者との苦い思い出がごっそりと詰まっているらしいから。
小さな頃初めてもらった花束に虫を入れられた話もされた。酷い、嫌い、と言っていたが、おそらくそれは好きな女の子に嫌がらせをする類のやつだと思う。
吾輩のように無駄に長い時間を過ごしているとそんなことは手に取るように分かるが、それを言うとキャンディッドの新たな愚痴を引き出して彼女を殺すのが遅くなりそうだから黙っていた。
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