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271 気まぐれ精霊の恩返し
しおりを挟む目の前には大物臭漂う冷徹腹黒偽王子。後ろは壁。
精神的・肉体的に追い詰められて、ああ前にも似たようなことがあったなあ――と、思考が勝手に現実逃避を始める。
いわゆる走馬灯ってやつですね。
王子が秘密の離宮に送られている間の夏休み。
王子によってクラフト系ゲームで悪気なく細部まで作り込まれた、あちらの機密情報たっぷりの建築物を見られ、そのあまりの情報漏洩っぷりに偽王子軍団の親玉腹黒さんにガチギレされて、床やら壁やらに追いつめられた時のことはビーズクッションの感触と共によ~く覚えている。
何ていうか、自分がダメになりそうなフィット感がすごかった。
けれど、前回と違い硬く冷たい壁を背にした今は、ただただ背中が寒い。
あの時はおでこにサクッと魔法? みたいのをかけられて、物理的に余計な事を言えないようにされただけだったけど、今度こそ命の方をサクッとされちゃうかもしれない。
ぶっちゃけ、腹黒さんからしてみればその方が手っ取り早いだろうし――と考えたところで腹黒さんがニヤリと嗤う。
――おおっとコレもしっかり読まれていましたね。
ナシ! 今のはナシで!!
そこで了承の笑みはやめてください、怖いから!!!
怒りを孕んだ偽王子(腹黒)の年齢不詳の整った顔が私の目前に迫り。
もうダメだ――と私が覚悟を決めた瞬間。
ピッカピカピカピカ☆★☆★
「……っ!?」
目の前で強い光が激しく点滅し、それに驚いた腹黒さんが声にならない悲鳴を上げて、よろめくように後ろへ下がる。
光が点滅する度に彼の腹黒臭漂う眼鏡のレンズにそれが反射して、思わず目がそっちにくぎ付けになってしまうがそれよりも。
まるで盾となるように――。
私の前で点滅を繰り返すまばゆい光。
ちょっと眩しめの白いホタルみたいなその輝きには見覚えがあった。そう、王子についてあちらから召喚されてきた、お祭り大好きはっちゃけ精霊さん達だ。
昨日は王子の周りを楽しそうに飛び回り、我が家の電化製品に集まってはピカピカ光って求愛アピールを繰り返していたが、そういえば朝になっても数匹部屋に漂っていたから、朝食にトーストを出したんだった。
だるまさんが転んだ状態でしっかりと四枚切りのパンを平らげて。食後のコーヒーまで飲んでいたけれどあの子達まだ居たのか。
「…な……っ!? どうして彼らがここに……っ」
驚きの声を上げ、その光を目で追っている腹黒さん。
そして、私の前でピカピカと光り輝き、腹黒さんを威嚇する精霊さん達。
どうやら、精霊さん達が体を張って腹黒さんから私を守ってくれているらしい。今日の朝食や昨日のケーキのお礼だろうか。ケーキは三割引きだし、パンは焼いただけなのに。
流石は精霊。何て義理堅い。
ああ、ありがとう精霊さん! おかげでサクッと消されずに済みそうだ……!!
――と、神々しい光に心からの感謝をささげた矢先。
フイ……っと、精霊さん達は突然興味を失ったようにどこかへ姿をくらました。
え? あれれ? おーい精霊さん?
……と、心の中で呼びかけても応答はない。
少し薄情にも感じる精霊たちのその様子に、昨日の王子の言葉を思い出す。
『精霊は気に入った人間に手を貸してくれることもあるが、暗い夜道で転ばないよう足元を照らしてくれるとかその程度だ。でも気まぐれだから飽きたらすぐに手伝いをやめてどっか行っちゃうし、国民の方もそこまで精霊を頼りにはしていない』
――ああ、なるほど! こういうことですか。……納得。
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