269 / 324
269 おもてなし召喚主VS悪戯っ子精霊
しおりを挟む「ん? 召喚主どうかしたのか?」
「あ、いや……何か、キラキラしたのが王子の周りに見えるんだけど」
まるで。漫画に出てくるイケメンのキラキラ表現のように。王子の周りが物理的に光って点滅している。
ちょっと眩しめの白いホタルみたいな感じというか……。
真っ昼間でそれが似合う王子の周りだからいいけど、暗い夜道だったら悲鳴を上げる自信がある。どことなく心霊写真のオーブっぽくもある。
「――ん? ああ、昨日集めた精霊が何体か付いてきちゃったのか」
「は? 精霊??」
「ああ。昨日の塔でのイルミネーション祭りでテンションが上がってはっちゃけているんだろう。もしかしたら僕の話を聞いてこっちに興味を持ったのかもしれない。どちらにしても神聖な存在である彼らは魔法陣なんて使わなくても自由に行き来できるから、ほどほどで満足して帰るか気に入って住みつくか、自分達で適当に判断するだろう。放っておいて大丈夫だ」
扱い雑だな!! たった今、神聖な存在って言ったばっかじゃん! いいのかソレで。
……ってか軽~く言っているけど、そもそも精霊って王子が勝手に招集しちゃっていいものなの? 街に存在して当然のモノが根こそぎ塔に集まっちゃったりしたら国民の日常生活に支障が出そうなんだけど。
「……ねえ、王子。さっき王都中の精霊集めて塔を光らせたって言っていたけど、そんなことして大丈夫なの? 王都? から精霊が消えたらソコに住んでいる住民が困ったりしない? それに突然塔が光るとか、そんな異常現象が起こったりしたら見た人が怯えそう。天変地異の前触れだとか思われたりしないかな?」
「いいや? 精霊は気に入った人間に手を貸してくれることもあるが、暗い夜道で転ばないよう足元を照らしてくれるとかその程度だ」
トナカイ的なやつかな?
「でも気まぐれだから飽きたらすぐに手伝いをやめてどっか行っちゃうし、国民の方もそこまで精霊を頼りにはしていない。基本的に見えないから王都民は周囲から精霊がいなくなったことに気が付いてすらいないと思うぞ。まー、イルミネーションの目撃者は多少驚いたかもしれないが、そもそも精霊は祝福を与えてくれると言われているからな。塔の光を見た者は『縁起がいい』と喜んでいるはずだ。精霊はイタズラ好きだからそういう事をやりかねないし……まあ実質的な影響としては癒し効果で見た者がちょっとほっこりするくらいだな」
茶柱的なやつだった。
そしてどうやら精霊の存在は生活に必須という訳でもないらしい。う~ん……まあ、困る人がいないのなら別にいいか。
王子についてきちゃった精霊は物珍し気に私の部屋の中を飛び回っている。テレビに集まったり照明器具に集まったり。電気に興味津々らしい。電化製品に自己アピールして光ったりしているからもしかしてお見合い気分だったりするのだろうか。それか異世界観光とか?
放っておいていいと言われたが、何となく気になったのと王子にこき使われてさぞお疲れだろうと思ったので、自分の分のケーキを少し切り分けて彼ら用に置いてみた。
疲れた時には甘い物って言うし。
精霊にそれが通用するかは謎だけど。
「うん! やっぱりこっちで食べるケーキは美味しいな~。クリスマス楽しいな~。あ、お茶がない」
「あ。ハイハイ」
王子の紅茶が空になったのでお代わりを注いでやる
そうして一瞬ケーキから目を離すと。
ごそっ。
え。精霊用ケーキが減っている!?
「あ、ミルクがもう無い」
「すぐ持ってくるわね」
ごそごそ。
……また減ってる。
食べているところは見えないけれど、一瞬ケーキから目を離すと量が減る。何、この不思議現象。3度目で精霊用のケーキは完全になくなった。
王子は既に自分のケーキを食べ終えて、クラフト系ゲームを立ち上げ久々の建築に夢中になっている。ゲーム内に作った幽閉中の塔にイルミネーションを仕込んでいるようだ。よほどキラキラが気に入ったらしい。
それはともかくとして、ケーキの行方が気になる私は更に自分の分を切り分けて精霊用のお皿に置くが、ついつい王子の建築に気をとられて目を離すとケーキが減る。
何だろうこの『だるまさんが転んだ』的なヤツ。
何か悔しい。
どうしてもその瞬間を見たくなった私は今度はかなり大きめにケーキを取り分けた。
王子の建築を見るふりをして……
だるまさんが転んだっっ!!(超高速)
ご……そ…?
光がわらわらと集まって、ガツガツと豪快にケーキをかっ食らっている。私に見られているのに気が付いて精霊たちのその動きがピタリと止まった。
その後、決定的瞬間を見られて諦めがついたのか、精霊たちは開き直ってゆっくりとケーキを食べだした。私としても満足したので、紅茶も淹れてあげると精霊たちは嬉しそうにわらわら~っとそちらに移動する。ちょっとかわいい。
せっかくホールケーキを買ったものの、ほとんどを精霊にあげてしまったので私が食べられたクリスマスケーキはごく僅か。だけどとっても満足です。
なんかいいものが見られたし!(ほっこり♡)
……って。
ああ、王子の言っていた癒し効果ってコレのことか。納得。
30
お気に入りに追加
352
あなたにおすすめの小説



アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

魔法のせいだから許して?
ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。
どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。
──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。
しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり……
魔法のせいなら許せる?
基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

誰も残らなかった物語
悠十
恋愛
アリシアはこの国の王太子の婚約者である。
しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。
そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。
アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。
「嗚呼、可哀そうに……」
彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。
その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました
お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる