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257 負けず嫌い召喚主と≪精霊祭り≫

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 この時期の夜の街並みは自分で思っている以上に見応えがあった。


 ちょっとコンビニへ……とか、そのくらいの外出はあるけれど。基本的に私、夜はあまり外に出ないからな。
 実家にいる時も夜の外出は家族から心配をされるから、親かお兄ちゃんのうちの誰かが付き添ってくれていたし……。


 その感覚が身についているせいか、一人暮らしを始めてからも夜の外出はなるべく控えていた。何だかんだ、私が夜にちょいちょい出かけるようになったのは異世界から王子様を召喚するようになってからだ。

 そう考えると、この日々の王子召喚は私にとっても大きなメリットがあると言えそうだ。


 お兄ちゃんに付き添ってもらっている感覚で安心して夜のスーパーに行ってお得なお値引き品が狙えるし。

 そのお陰で食費が下がって、王子のおやつ代も賄えるし。
 王子の好きなポテトチップスとコーラ代も馬鹿になりませんからね☆


 ……って、あれ?
 よくよく考えてみるとコレってプラマイゼロじゃない?? ううん、本物の他に偽王子が3人もいることを考えるとむしろマイナスかも……。

 偽王子(大)用の甘い系おやつに偽王子(猫耳)用の魚系おやつに偽王子(腹黒)用のエナジードリンクetcetc……で、エンゲル係数爆上がり……。


 …って、はっ!? いけない、いけない!
 これは冷静に考えたら確実にボロ負けしちゃうやつだ!! もっとテンション上げないと!

 大丈夫、年季の入った私の負けず嫌いは伊達じゃない!!! ――――よし!




 ……とか、気持ちの上で本末転倒からの巻き返しを図っているうちに、無事目的地≪駅前≫へと着きました。

 駅前には銀行から書店から飲食店まで、とにかくたくさんのお店がひしめいている。
 その一つ一つが丁寧にクリスマス仕様の飾りつけを行っていてとても華やかだ。ちなみに私のイチオシは眼鏡屋さん。

 ツリーにさりげなく飾られた眼鏡の飾りが素晴らしいですね☆


「これは凄い……光が溢れてキラキラしているな…………」


 ――と、王子もすっかりイルミネーションに魅了された様子であちこち眺めている。

 おお。中途半端翻訳が消えて、言葉もバッチリ通じるようになりましたね。どうやら順調に王子との信頼関係が深まっているようだ。

 行動可能範囲もじわじわ広がっているみたいだし、この分なら駅近のショッピングモールに行ける日も近いかも知れない。

 あっちのツリーも本格的でキレイなんだよね。色々なお店もあるし、フードコートも広いし、来年はぜひ、王子をそっちに連れて行ってあげたいものだ。

 うん! 来年の目標も出来て、イイ感じに興奮してきましたよ。


 王子召喚の勝ち負けを気にしている場合じゃなくなってきましたね――――ってか、むしろ勝ち。




 駅前のクリスマス装飾は昼間に見ても十分楽し気だったが、こうして夜に見ると電飾のキラキラも加わるせいか、より一層華やかさが増している。

 私も去年はピタッと召喚されてこなくなった王子を心配してクリスマスを楽しむどころじゃなかったし、それが今年はこうやって会話をしながら、一緒にイルミネーション見物ができているのだから素直に嬉しい。


 ――――何より、夜に見ると本当にキレイだ。


 一応、早朝バイトの都合上、朝方まだ真っ暗なうちに出勤はするけれど、わざわざ駅前の方までは来ないから、私もこうしてじっくり駅前のイルミネーションを見るのは初めてかもしれない。

 早朝の電飾がどうなっているのかは分からないけど、どのみち朝は私も楽しむ余裕がない。周りが住宅街で安全な道を通って出勤するとは言っても、やはり駅前に居酒屋がある影響か、朝方は酔っぱらいが騒いでいたりもしますのでね。

 そのため、たとえ時間があってもわざわざ見に行ったりしません。出来る限り危険は避けます。
 何かあって、一人暮らしを辞めさせられたら嫌だから。


 そういった意味でも、王子と夜に出歩けるのはやっぱり楽しいかもしれない。
 王子はお兄ちゃんと違ってお出かけするのに面倒そうな顔はしないし、一緒になってこういう季節の行事を楽しめるもの。

 うん。この王子召喚、やっぱ勝ち負けでいうなら私の勝ちだな! 王子様様です。

 そう思ってちらりと隣を見あげれば、王子はロータリーにある、ひと際大きい木に魅入っていた。


 どれどれ、と王子につられるようにして私もそちらに目をやった。


 クリスマスツリーに見立てられたその木には多くの電飾が付けられていて、どの店先に置いてあるソレよりも華やかだ。しかも、電飾自体少し凝っていて、一斉に点滅したり時間をずらして光の線を描いたりと、飾り付けた人の拘りが見える素晴らしい出来だった。

 いつもならわざわざ立ち止まってまでこんなにじっくり見たりはしないから、視界の隅で流れていくだけの日常風景にここまでの仕事がしてあるとは気が付かなかったかもしれない。

 王子と一緒にその幻想的な電飾にしばし見惚れていると、すぐ横から、


「精霊祭りみたいだ――」


 ハッキリと――それでいてどこか心あらずと言うように呟く王子の言葉が聞こえた。


(精霊祭り……?)


 何だろう。聞き覚えがあるような、ないような。王子の世界の、クリスマスを彷彿とさせる祭り的な何かだろうか。
 不思議に思って隣を見あげると。



 イルミネーションの光に照らされた王子の目から、ポタポタと涙が伝っていた――――。





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