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254 隠さぬ思いと秘かな願い(先輩視点)
しおりを挟む「ご馳走様。どれも美味しかったよ。お握りもデザートも……お茶も。こんなに余計な味がしないお握りを食べるのは産まれて初めてだ」
「え? 先輩がいつも食べるシャケお握りって、塩の他にも何か入っているんですか?」
「ああ、どうしてもまりょ……ま、まあその辺はいいじゃないか!!」
いかん。食べ切った満足感からつい気が緩んだ。変に魔力の存在を知られてルカに警戒されても困る。
今日発生した手作りお握りイベント……これは、決して偶然じゃない。大学祭での失敗から学んだ俺が、ルカへのアプローチを強めた結果だ。
あれだけ乙女ゲーム乙女ゲームと言って高校時代のほとんどを乙女ゲームに捧げて夢中になっておきながら、その経験と知識はいったいどこに消えるのかと不思議になるくらい、ルカは自分の恋愛面には鈍感だ。
なので、少々やり過ぎなぐらいじゃないと彼女には伝わらない。
それが、ルカと出会ってからこれまでに俺が学んだことだ。
だから。
「それにな、ルカ。俺はお前がこうして作ってくれたことが嬉しいんだ」
誰の魔力も感じないまっさらで柔らかなルカの手を取って、俺は甘い言葉を囁いた。もちろん眼鏡のお手入れはバッチリだ。それだけは胸を張って言える。
ルカの性癖とも言える『ソレ』に関してだけは、他の誰よりも知り尽くしているという自負がある。
ほら……。
ルカの目が、眼鏡を通してついでに俺を見る。
少し、部員からの憐れむ様な呆れた視線も感じるが、お前たちはそれでいい。それを理解できないうちは俺の敵ではないからな。
目的の為に眼鏡くらい姑息に利用できるようでなくてはルカの心に入り込むことは不可能だ。
ルカとは学年が違うから、既に三年の俺にはあと一年とちょっとしか共に過ごせる時間がない。
もちろん就職先をうまく誘導してその先についても逃すつもりはないが、その前に彼女を手に入れることが出来ればそれに越したことはないんだ。
既に一度儀式に失敗してしまった俺には後がない。
焦りは禁物。けれどのんびりもしていられない。
過去の反省を活かしてルカを騙したりはしない。無理強いもしない。その上で残された時間を使い、俺の持てる知識・人脈・財力・眼鏡、それらすべてを利用し俺の愛情をルカに示す。
そして、ルカが目の届かぬところに行ってしまう俺の卒業前に、もう一度儀式を――。
とか思っていたけど。
「それじゃ、今度は先輩の好きな具でお握り作ってきますよ! 何がいいですか?」
……と言われて気が変わった。
確かな手応えを感じる。
うん。もうコレ儀式しちゃってよくないか?
よし、即実行しよう! …と、準備を始めたら落ち着けだのまだ早いだの言われて他の部員に全力で止められた。
くそ……っ! ルカに胃袋を掴まれたお邪魔虫どもめ!
ふざけるな、と煩わしく思ったが、考えてみれば前回失敗してからからまだひと月ちょっとだから、魔力の回復が追いついていないのも確かだ。今回は仲間に救われた。
どうも俺は自分で思っている以上にルカが絡むと冷静ではいられないようだ。
残り少ない僅かなチャンス。ルカを手に入れるためにも最高の舞台で迎えたい。
……やはり持つべきものは苦楽を共にしてきた仲間だな。
ルカを譲る気はないが、適度にけん制だけはしながらこれからも仲間と共に部活動を楽しんでいこうと思う。
……そして決して奪われることがないように。行く行くはルカと二人で…………
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