魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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250 猫ちゃん安否情報 

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 さて。若干ヘルシーなおやつ(当社比)で腹ごなしをして、その後は偽王子(大)と二人でのんびりレースゲームを楽しんでいた――のだけど。

 ふと気が付けば。私はゲームをしながらも姿を見せない猫ちゃんのことを考えていた。




 先週。うっかり二人して寝落ちをしてしまい、ほぼ夜中とはいえ、朝帰りになってしまった偽王子(猫)。

 暫くは偽王子(猫耳)が塔担当だと聞いていたのに、このタイミングで他の偽王子にチェンジとなると、どうしても彼の安否が心配になってくる。

 日頃のおもしろ謎行動から忘れてしまいがちだけど、この人たち食事休憩無し24時間勤務当たり前の、超絶ブラックの『王家の影』だし。話を聞いている限り、人権も何もあったもんじゃない。

 いや、まあ、それについてはこっちのブラック企業も大概だけど。……鈴木さん大丈夫かな…。


 ただ、そこはやはりこっちと違い『異世界』ならではの怖さを考えてしまう。



 なんていうか……。
 猫ちゃん、ちゃんと生きている……よね?



 私のせいでもふもふ猫ちゃんが妙なことになっていたらどうしよう――とか、そんな余計なことを考えていたら、レースゲームに集中しきれず偽王子(大)に負けてしまった……。


「…………」


 そんな私の様子を見て思うところでもあったのだろうか。対戦していたレースゲームをやめて、偽王子(大)が淡々と別のゲームを用意し始めた。

 あ。偽王子(大)もゲーム機の操作完璧に覚えていますね。前回の召喚から結構経つのに。
 猫ちゃんもだけど物覚えいいなあ、この人たち。


 そうして彼が始めたのは王子(本物)お気に入りの『クラフト系ゲーム』。


 私からレースゲームをリクエストしたくせに、気もそぞろにプレイしているのがつまらなかったのだろうか。
 確かにこっちのゲームなら対戦じゃないから、偽王子一人で黙々と遊べるけど――と、彼がゲームする様子を見ていたら。

 偽王子(大)は迷うことなくセーブ場所からゲーム内アパートへと移動し、自分の部屋――ではなく、そのお隣の猫ちゃんの部屋へと入っていった。

 おや、久しぶり過ぎて部屋を間違えたのかな? とか思っていたら。

 ポツリと。


「………………元気」


 …と、一言だけ呟いた。



「………!!」



 何が――と聞き返すほど私も野暮ではない。きっと、偽王子(大)なりに色々と考えた上で、言える範囲で猫ちゃんの無事を伝えてくれたのだ。


 私は王子の前で偽王子(猫耳・大・腹黒)の話が出来ない。


 おそらくは魔法的な何かだと思われるが、言おうとしても物理的に声が出ないのだ。けれど主語をぼかしたり、言い回しを少し工夫すれば大まかに伝えることは出来る。

 たぶん――王家の影の彼らにも、何かしらの制約があるのだろう。だからこそ、一番私が気になっていることを、様々な情報を組み合わせてこっそりと教えてくれた――。



 ただでさえ言葉数が少ない偽王子(大)。

 それだけに、その短い言葉に込められた彼の配慮に心が温かくなる。



 猫ちゃんは正体がバレたら私の口封じする気満々だけど、これ……偽王子(大)はその辺色々なことを解った上でやってるよね? 確信犯というか……。


「………………(カタカタ)」


 あ? ……うん? …いや……なんか顔青いな。
 ――え。しかもちょい、震えてる??


 あれ? もしかしてコレ――ウッカリやっちゃった系ですか? あはは。いやいや、まさかそんな。

 あれだけ綿密に頭使ったうえで……みたいな動きをしておいて。――ねえ?


 …………。


 ……そういや今日来た時も、思いっきり王子のフリをしていたしなあ………。

 冗談みたいだけど、あれで真剣に王子(本物)になりきっているとか信じられないけど、本人はガチなんだよなぁ……。

 そもそも初めてウチに召喚されて来た時からああだったし。何なら偽王子としての精度はちっとも変っていない。もはや王子との共通点を探す方が難しいレベル。

 まあ、私以外にはあれで王子(本物)に見えているらしいから、あのグダグダな再現度でも頷けるけど。



 海での任務中。
 手漕ぎボートでこっそり尾行しているはずの王子をついつい自慢の筋肉でサクッと追い抜いちゃったりとか、見た目通り脳筋なところがある偽王子(大)。


 基本が優しいだけに。猫ちゃんのことで思い悩んでいる私を思いやって、あまり深く考えることなくつい行動しちゃったとか普通にありそうだ。


 う~ん。


 ……まあ。ウッカリだろうが、確信犯だろうが、偽王子(大)が私を元気づけようと猫ちゃんの安否情報を伝えてくれたのは間違いない。

 それでもって、そんな彼のお陰で私が安心できたのも事実。彼が持つ優しさだけは疑うべくもない。
 そしてそんな優しい偽王子(大)にはできるだけ余計な精神的負担をかけたくない。


 なので。


「そっか、良かった。王子は元気なのね! それじゃ王子が元気なら、もう少しレースゲームに付き合ってくれる?」

「!!!…………(こくこくこくこく)」


 偽王子(大)の発言が有耶無耶になるよう私が曲解したことで、彼的には自分の不用意な言動をうまい具合にスルーしてもらえた――と安心したのだろう。

 首がもげそうなほど、私の提案に大きく頷く偽王子(大)。

 うん。うまいこと誤魔化せたみたいです。まあ、この人の場合、極端に口数が少ないからこそ出来る力業ではありますね。

 発言のほとんどが失言を含む猫ちゃんだとこう簡単にはいかない。どこまで本気か分からない偽王子(腹黒)も同じ。しかも、あの人の場合は勝手に人の思考まで覗いてくるからたちが悪い。

 うん。そう考えると、最初こそ口数の少なさに苦労したけど、偽王子の中ではこの人が一番まともだし実害ないな。

 王子絡みの妙な制約無かったら一度じっくり話してみたかったかも。まあ口数少なすぎて会話が成立しないだろうけど。


 ――と、いう訳で。


 気を遣い合った結果、その後はお互い心穏やかにレースゲームを楽しんで、日付が替わる一時間前には偽王子(大)は異世界へと帰って行きました。


 あ☆ レース結果は私の全勝でした♡




 …いや……ほら。
 私、負けず嫌いなので…………。





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