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241 無抵抗王子と行く腕組み散歩
しおりを挟む「言葉がまだ通じているから大丈夫だって。信号変わったから行こう。手を繋いでいるから、ほら」
そう言って繋いでいる手にギュッと力を入れたら
「ぜ、絶対だぞ。絶対、手、離したらダメだからな!? 嘘ついたら泣くからな!!?」
――とか、王子が自転車練習中の子供みたいなことを言ってきた。あれ? ついさっき王子の進化を喜んだばかりだけど、こういうのを見ちゃうとやっぱり退化している気がする……ってか、幼児化?
まあ、これも仕方ないか。この行動可能範囲の確認って、王子からしてみれば、転落防止用の柵が設置されていない崖を観光しているようなものだもんね。
この先の絶景を見たいけど、落ちたら最後どうなるか分からない。幽閉中の塔に戻されてヘタしたら数カ月は塔から身動きできなくなっちゃう――という、リスク(幽閉)と常に隣り合わせのギリギリを見極める手探り感覚の異世界散歩。
まあ、絶景も何も、この先にあるのは私が普段通学に使っている何の変哲もない駅ですがね。ただ、非常に利便性は高いです。
さあ、うだうだしてないで、信号点滅しているから急ぎますよ! がしっと腕を組んで引っ張れば、王子が無駄な抵抗を止めて大人しくついてきた。
横断歩道を無事渡り切って、はい、よくできましたーと、褒めようと思い見上げると、口を引き結んで真っ赤な顔をした王子が――って、え!?。
「ご、ごめん、王子!! 無理やり引っ張っちゃって……えーと、そんなに怖かった!? 泣きそう!??」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………いや!! 大丈夫だ、その……手………………………………………………じゃなくて腕! 君がこのまま腕を組んでくれていれば!!!!」
「あ、まだ言葉もちゃんと通じているね」
良かった……真っ赤な顔して黙りこくっているから、また突然消えちゃうのかと思って焦ったじゃないの。ったく、心臓に悪いな、この王子。
まあ、顔はまだ赤いがやたら気合の入った顔をしているのでまだ大丈夫でしょう! 大きな山場を乗り切って気持ちが高揚しているんだね、きっと。
よく頑張りました。エライ、エライ! …と褒めてやると組んだ腕に縋りつきながらドヤ顔をするという、非常に器用な技を見せてくれました。
いや、頑張ってはいるんだけどなぁ……なんだかなぁ……。
その後も散歩を続けると、駅前辺りで王子の言葉が怪しくなった。
残念。この分だと駅の向こう側に行くのは難しそうだ
行動可能範囲の確認に無理は禁物。なので、今のところ王子が安心して動き回れるのは駅に入る一歩手前のこの辺りまで――と考えた方がいいだろう。
とりあえず言葉が通じなくなった王子の様子を観察してみると、やけに落ち着きがない。
最初は言葉が通じなくなったことに焦って取り乱しているのかと思ったのだが、あちこち指差して何やら『※※△△○○?』的なことを言っている。
……おっと? よくよく聞いてみると「召喚主」だの、「何?」だの、異世界の言葉の中に日本語らしき言葉が混じっていますね。
どうやら完全に言葉が通じなくなったわけではなくて、『中途半端翻訳』状態になっているようだ。
……なるほど。以前は行動可能範囲と範囲外の境界線付近と言うか、信号で言うところの黄色部分に入ると警告の意味も兼ねて、魔力節約の為に自動翻訳が切れて突然言葉が通じなくなっていたけれど――その前にワンクッション挟まる仕様になったっぽい。
コレは色々と調べてみる必要がありそうだ。
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