魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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235 最新☆機密の情報源

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「……は~。もう、分かったから。全部知っちゃったから。王子もあんまりこういう無茶はしないでよ。幽閉されているのが退屈ならウチ来て遊べばいいからさ。私も、もうすぐ冬休みだから、少しは召喚増やしてあげられるし……」

「……!! 本当か!? 僕もアップデート? されていた『幽閉前に住んでいた城(最新版)』の変更点が気になっていただけで、別にそこまで退屈はしていなかったのだが、こっちで遊べるのなら、その方が断然楽しいからそれでいい。ってか、その方がいい。アレ着て城に潜り込んでも怪しい人間がコソコソ話している内緒話を堂々と聞けるくらいしか楽しみないし。それも密告書作ってこっそり王族の机に置いてとりあえず防いでおいたが、クーデターの計画とか知っちゃっても元々幽閉中の僕には無関係だから面白くもなんともないしな!」


 ……最後にとんでもないのぶっ込んできましたね。

 いや、まあ私にも関係ないっちゃないし、事前に防いだのならそれこそ被害者もいないんだし、まあ、いいか。


 ――ってか、王子、あんた幽閉されている身で、本当に何をやっているんだか。いいからウチで大人しくゲームでもしていなさいよ。

 とりあえずこのまま放っておくと何かとんでもない事しでかしそうだから、少しと言わず限界まで召喚増やしておこう――と、ため息とともに決心していると。


「ああ、そういえば。食堂に入り込んだ時に最新の機密情報を手に入れたんだった」

「…最新の機密情報? ……何?」


 ふと。何かを思い出したように王子が言った。


一瞬。反射で耳を塞ごうとしたが、私は既に塔から城からダンジョンから秘密の離宮から潰えたクーデター計画まで知ってしまっている。

 ここまで来たらもういいか、寧ろクーデターより重大そうな情報がちょっぴり気になる――と思い、王子に続きを促すと。


「実は――偶然耳にしたのだが―――」


 ごくり。緊張から唾を飲み込む私。王子にとって城の構造より、クーデターより、重要そうな最新の機密情報。

 一体それは――…。



「食堂の獣人用裏メニューに『シャケお握り(もどき)』が加わったらしい。」



 …………。あ……ハイ、そうですか。

 ――って、なんだ、そのスペシャルどうでもいいプチお得☆情報。
『シャケお握り始めました』って、そんなの壁に貼ってある冷やし中華始めました☆的なアレと一緒じゃない。


 ただの新メニュー☆ どこが機密だ。私の緊張感を返してよ!!


「ん? 君のその顔は信じてないな?? まあ、こっちとは食生活が違う筈なのに、と召喚主が疑う気持ちはよく解る。僕だってまさか…とは思ったさ。だが、食堂に忍び込んだ時に直接聞いたんだ。『お! 何、お前新入りか!? だよな!? ソレ着てるってコトはそうだよな!? そっか、そっか、後輩か~。んでもって、オレは先輩か~。よぉーし! 優しい先輩がこっそりココの極秘情報を教えてやるからな! 『先輩は優しくて面倒見がいい』ってアイツも言っていたしな! 実はこの食堂には最近加わった、影だけが知る獣人用の裏メニューがあってだな…』って。こっそりとか、極秘情報とか言う割に声が大きいのに、周りが一切こちらを気にしていないのが不思議だったな。そういや、今考えると認識阻害のかかったローブを着ている僕を、認識できていたのもおかしいな。何でだろう……??」


 心底不思議そうに首を捻る王子様。


 ……って、猫ちゃーん!! あなた偽王子ですよね!? しかも王家の影なんですよね!?


 いや、何堂々と本人に話しかけてんの!?
 そんでもって、王子も何普通に話しかけられてんの!? 

 自覚なさすぎだろう、お互いに!!!!


「ここだけの話だが……」

「え…な、何?」

 声を潜めて言う王子。
 ……ええ、いいですよ。聞きましょうとも。ここまできたらもう、何を聞かされたって驚いたりしませんよ。



「……美味かった」

 ――――って、王子食べたのか!!! 





 驚きはしないけど呆れる発言を残し帰って行く王子を見送ると、一気にドッと疲れがやってきた。


「はあ……もーやだ、あの王子と偽王子。危機感の無さがソックリ…………って、王子の偽者としてはむしろそれが正しい姿なのかしら??」


 確かに……猫ちゃんは前に後輩がどうの……とか言っていた気がするけど。まさか、それが王子だったとは。

 全然気が付かなかった……っていや、普通は気が付かないよね? むしろ気が付く方がどうかしている。


 …はあ……。


 ――ま、今度猫ちゃんが猫耳状態で来た時にさりげな~く確かめてみるか。





 ――しかし。

 その『今度』が、なかなかやって来ないことに――。





 ……今の私はまったく気が付いていないのだった。






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