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204 鈴木さんの休日(前の召喚主視点)
しおりを挟む「あれ? 鈴木さん、何でここに?」
日曜日。フラリと訪れた大学祭をアレコレ見て回っていると聞き慣れた元気な声がした。
そして、見慣れない姿に驚く。
心の妹は全身を覆うような真っ黒なローブを着込んでいた。艶やかな長い黒髪に黒いローブが良く似合う。どうやら俺の心の妹は中二属性があったようだ。新たな魅力発見に心が躍る。
「ああ、ルカちゃん。この前、大学祭があるって言っていたからさ。会社行くついでに覗いてみたんだ。何か、学生時代が懐かしくなってね。まさか会えるとは思わなかったよ」
「えっ! 会社って、今日、日曜日ですけど……」
「いつもは休みなんだけどね。業者が入るからって、カギ開けるのを頼まれたんだよ。夕方には作業が終わるから、時間つぶすのにちょうどいいかと思って」
「いやいやいや、待って、鈴木さん。昨日の早朝、徹夜残業明けで朝食買いに来ましたよね? その前の日も早朝にお弁当買いに来ましたよね? 無理が利くからって、無茶ばかりしてちゃ駄目ですよ!? ちゃんと休んでますか? いや、本当に……っ!!」
「ははは。心配してくれてありがとう。休めるときに休んでいるから大丈夫だよ。ルカちゃんは優しいね」
「いや、鈴木さんが働きすぎなだけですって! もうっ、ホント自重してください。あの、すいません。せっかく会えたし案内してあげたいんですけど、ちょっと人を捜していて」
「あー、いいよ、いいよ。暇つぶしに来てみただけだから俺のことは気にしないで。適当に少し見て回ったら帰るから」
会社に、だけどな。
開けたら閉めるはセットだからな。仕方ない。
「暇つぶし――ああ、それなら占いがお勧めですよ。私の所属するサークルがお店出してて、結構当たるって評判なんです。私も練習で占ってもらったけど、仕事運とか健康運とか的中率がすごいんですよ」
「占い……ああ、それでそのローブなのか。雰囲気あるな」
「皆コレお揃いで着ているから場所は見ればすぐ分かると思います。じゃ、無理しないでくださいね。ああ、今日は天気もいいし、ちゃんと水分補給はしてくださいね。いつかみたいにトイレ行きたくないからって我慢しちゃ駄目ですよ!」
「ハイハイ。俺の心の妹は心配性だな。ホラ、用事があるんだろう? ルカちゃんもしっかりと学生生活を楽しめよ」
心配そうに。チラチラとこちらを振り返りながら去って行くローブ姿の心の妹を見送って。
しまった、これってかわいい心の妹と一緒に写真を撮るチャンスだったんじゃないかと気が付くも、いやいや、『心の妹』は俺が勝手に言っているだけで、実際は家族でも何でもないのにそんなこと言ったら気持ち悪いと思われるかも……むしろこれくらいで良かったんだ、と思い直す。
大丈夫。俺は物覚えがいい方だ。
ローブ姿も、コンビニの制服も、心の妹はとても可愛く着こなしている。だから絶対忘れない。
……うん、これで正解。
それにしても、『学生生活を楽しめ』なんて、ついつい説教じみた言い方をしてしまった。
まあ、仕方ないよな。あの悪魔……王子に振り回されたせいで俺はまともな学生生活を送れなかったし、彼女には俺のようになって欲しくない。
やっかいな魔法陣を押し付けてしまった身としては、その辺のことはしっかりと伝えておかなければ。
「しかし、占いの店なんてあったかな?」
今までも適当に敷地内をプラプラしていたが、該当の店を見た記憶はない。それでも心の妹が見れば分かると言うのだからそうなのだろう。
若干衣装に照れている、かわいい心の妹のローブ姿を思い出しながら見回すと、既に通り過ぎた場所に黒いローブの集団が見えた。
ああ、あれか。ルカちゃんが言っていた通りだ。すぐ分かった。さっきまで全然気が付かなかったのに不思議だな。
コレが妹パワーか。
俺のお兄ちゃんセンサーは今日も精度が高いようだ。
俺は心の妹のお勧めを体験すべく、黒いローブの集団の方へと歩き出した。
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