魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

文字の大きさ
上 下
204 / 326

204 鈴木さんの休日(前の召喚主視点)

しおりを挟む

「あれ? 鈴木さん、何でここに?」

 日曜日。フラリと訪れた大学祭をアレコレ見て回っていると聞き慣れた元気な声がした。

 そして、見慣れない姿に驚く。

 心の妹は全身を覆うような真っ黒なローブを着込んでいた。艶やかな長い黒髪に黒いローブが良く似合う。どうやら俺の心の妹は中二属性があったようだ。新たな魅力発見に心が躍る。


「ああ、ルカちゃん。この前、大学祭があるって言っていたからさ。会社行くついでに覗いてみたんだ。何か、学生時代が懐かしくなってね。まさか会えるとは思わなかったよ」

「えっ! 会社って、今日、日曜日ですけど……」

「いつもは休みなんだけどね。業者が入るからって、カギ開けるのを頼まれたんだよ。夕方には作業が終わるから、時間つぶすのにちょうどいいかと思って」

「いやいやいや、待って、鈴木さん。昨日の早朝、徹夜残業明けで朝食買いに来ましたよね? その前の日も早朝にお弁当買いに来ましたよね? 無理が利くからって、無茶ばかりしてちゃ駄目ですよ!? ちゃんと休んでますか? いや、本当に……っ!!」

「ははは。心配してくれてありがとう。休めるときに休んでいるから大丈夫だよ。ルカちゃんは優しいね」

「いや、鈴木さんが働きすぎなだけですって! もうっ、ホント自重してください。あの、すいません。せっかく会えたし案内してあげたいんですけど、ちょっと人を捜していて」

「あー、いいよ、いいよ。暇つぶしに来てみただけだから俺のことは気にしないで。適当に少し見て回ったら帰るから」


 会社に、だけどな。
 開けたら閉めるはセットだからな。仕方ない。


「暇つぶし――ああ、それなら占いがお勧めですよ。私の所属するサークルがお店出してて、結構当たるって評判なんです。私も練習で占ってもらったけど、仕事運とか健康運とか的中率がすごいんですよ」

「占い……ああ、それでそのローブなのか。雰囲気あるな」

「皆コレお揃いで着ているから場所は見ればすぐ分かると思います。じゃ、無理しないでくださいね。ああ、今日は天気もいいし、ちゃんと水分補給はしてくださいね。いつかみたいにトイレ行きたくないからって我慢しちゃ駄目ですよ!」

「ハイハイ。俺の心の妹は心配性だな。ホラ、用事があるんだろう? ルカちゃんもしっかりと学生生活を楽しめよ」




 心配そうに。チラチラとこちらを振り返りながら去って行くローブ姿の心の妹を見送って。

 しまった、これってかわいい心の妹と一緒に写真を撮るチャンスだったんじゃないかと気が付くも、いやいや、『心の妹』は俺が勝手に言っているだけで、実際は家族でも何でもないのにそんなこと言ったら気持ち悪いと思われるかも……むしろこれくらいで良かったんだ、と思い直す。


 大丈夫。俺は物覚えがいい方だ。
 ローブ姿も、コンビニの制服も、心の妹はとても可愛く着こなしている。だから絶対忘れない。
 ……うん、これで正解。


 それにしても、『学生生活を楽しめ』なんて、ついつい説教じみた言い方をしてしまった。

 まあ、仕方ないよな。あの悪魔……王子に振り回されたせいで俺はまともな学生生活を送れなかったし、彼女には俺のようになって欲しくない。

 やっかいな魔法陣を押し付けてしまった身としては、その辺のことはしっかりと伝えておかなければ。


「しかし、占いの店なんてあったかな?」


 今までも適当に敷地内をプラプラしていたが、該当の店を見た記憶はない。それでも心の妹が見れば分かると言うのだからそうなのだろう。

 若干衣装に照れている、かわいい心の妹のローブ姿を思い出しながら見回すと、既に通り過ぎた場所に黒いローブの集団が見えた。

 ああ、あれか。ルカちゃんが言っていた通りだ。すぐ分かった。さっきまで全然気が付かなかったのに不思議だな。

 コレが妹パワーか。
 俺のお兄ちゃんセンサーは今日も精度が高いようだ。


 俺は心の妹のお勧めを体験すべく、黒いローブの集団の方へと歩き出した。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

私、幽閉されちゃいました!!~幽閉された元男爵令嬢に明日はあるか?~

ヒンメル
恋愛
公爵領に実質幽閉されることになったリリア・デルヴィーニュ(旧姓リリア・バインズ男爵令嬢)。 私、ゲームのヒロインだったはずなのに何故こんな事になっているの!!おかしい!!おかしい!!おかしい!! ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」のBL色強めの番外編「婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました」  (https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/974304595)にも登場していたリリアのその後の話です。BL的な話はなく、淡々とリリアの日常を書いていく予定なので、盛り上がり(鞭とか鎖とか牢獄とか?)を期待されている方には申し訳ないですが、(たぶん)盛り上がりません。 「婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました」ががっつりBLになってしまったため、話が読みにくいとおっしゃる方がいらっしゃるかと思うので、最初に簡単ですが、登場人物の説明を入れました。 いきなりこの話を読んでも大体はわかりますが、わかりにくいところがあると思います。登場人物説明を読んでから、第一話を読んでいただければと思います。 ※小説家になろう様でも公開中です。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。が、その結果こうして幸せになれたのかもしれない。

四季
恋愛
王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。

処理中です...