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198 秘密の共有(先輩視点)
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俺を怯えた目で見つめ、両手で耳を塞ぐルカ。
ああ、可愛い抵抗をして。でも、ごめんな。耳を塞いだところで全ての音を遮断するのは不可能だし、僅かにでも聞こえてしまえばコレからは逃げられないんだ。
産まれた時から俺に備わっている、常軌を逸した認識阻害能力。
コレは、本を正せばこちらの世界のものではない。
かつて。魔力や魔法が世界の根幹となっている世界からこちら側へと渡ってきた者がいたそうだ。
愛すべき者の魂を追って、所属する世界と過去を捨て去った名もなき者。
俺の先祖もそんな一人だったらしい。
異なる世界から排除されないように。
目立つことなく。騒ぐことなく。
自らの持つその能力を最大限に利用して。
その地に根差している草や花が野原に自然と紛れるように。
存在感を消してひっそりと生きてきた先祖たち。
愛する者と同じ世界で暮らしたい。ただそれだけの願いを叶えるために彼らはありとあらゆる制約を受け入れたそうだ。
外の世界から持ち込まれた能力は婚姻によりこちらの人間の中へと取り込まれ、代を重ねるごとに薄まりはしたけれど、時々俺のように先祖返りともいえる能力を持つ者を生み出してきた。
強すぎる認識阻害能力のせいで孤独を強いられる反面。そういった者達の素養は高く、成功者も多い。
――決して表舞台には出てこないが。
伴侶となるべき者にはなぜか姿が見えるとか。
制約が外れれば解放されるとか。
伝えられている情報は山ほどあるが、似たようなルーツを持つ者は複数いて、誰にどのルールが適用されるのかはもはや判別できない。
それでもそういった背景を持つ者同士、協力しながら生きているうちに分かってくる物事も多い。
仲間となるものへの秘密の共有――。
これさえ行えば、望む相手をこちら側へと引きずり込める。
おそらくは越えられない世界の壁とでも言うべきものでもあるのだろう。秘密を共有してしまえば、例えこの世界に生を受けた者でも、異物としてこちら側へと弾かれる。
その後は俺達の制約の中に組み込まれることになるけれど、仲間同士の結束は固いし、サポート体制も万全だ。
ルカは俺だけが見えるわけではないし、運命の相手ではないのかもしれないが、俺にとっては存在を認識してくれるだけでずっと特別な人間だった。
結婚でもして形の上で縛ってしまえば簡単だったのだろうが、愛だの恋だのと安い言葉で俺のアイツへの思いを表現するのは嫌だった。
例え婚姻で制約に取り入れ縛っても、離婚されて逃げられるんじゃ意味がない。もっと後戻りができない確実な方法で縛りたい。俺が、俺として在るためにはルカという存在が必要なんだ。
図書室で俺を見つけてくれたあの日から。
同じ場所で生きることをずっと望んできた。だから着実に準備を進めてきた。事前に同意を得ることは出来なかったけど、一方的に巻き込む形になってしまったけれど、決して一人にはしないから。
だから、どうか安心してこちら側へ来て欲しい。
その為に、全ての秘密を話すから――。
耳を塞ぎながらも、俺が語る話に目を丸くして驚いた表情を見せるルカ。
俺のあまりの執着心に拒絶されたらどうしようと不安になるも、時々、ふ……っと、表情を緩める様子に安心する。そうだよな。お前は優しいもんな。
今までだって結構引かれてしまいそうな言動をとってきたような気もするが、特にルカも気にしている様子はなかったし。
……まあ、比べられるほど人付き合いをしたことがないから世の中の基準なんてものは知らないが。
とりあえず耳を塞いだところで僅かでも情報が届く以上は世界の制約からは逃げられないし、俺の話に反応しているところを見るとちゃんと聞こえてはいるようだ。
よかった。あまり聞こえていない状態で人生を縛られて戸惑われるよりも、全てを理解した上で受け入れてもらった方が、ルカも今後の人生が生きやすくなるだろう。
当然、傍には俺がずっといるから大丈夫だ。
最期を迎えるそのときまで――決してお前から離れたりしないから。
全てを話す中で部室には魔力が満ちている。歴代の仲間たちが使ってきた部室。ここは俺達に一番近い場所だから、秘密の共有の儀式を行うには一番都合が良かった。
ルカのローブには俺の魔力が詰まっている。
昨日盛った魔力の影響は残念ながらかき消されてしまったようだが、話している最中に余計な邪魔も入らなかったし、ルカの耳には確実に俺の声が届いている。
秘密の共有が終わり、一か所に凝縮していく魔力。
ああ、これでやっと――。
安心して表情を緩めたそのときに。
「あ、先輩、怖い話終わりました??」
ずっと塞いでいた耳から手を離すルカ。
俺と同じような安心しきった顔をしているのが不自然だった。話……聞いていたんだよな?
だって、俺の話にあんなにコロコロと表情を変えて……って、その手に持っている小さい物は何なんだ?
パリン。
何かが割れるような音が部室に響いて。
「きゃあ! うわっ、何、今の音……って、あれ? えっ、先輩? 先輩どこ!?」
――ルカの認識から俺が消え去った。
ああ、可愛い抵抗をして。でも、ごめんな。耳を塞いだところで全ての音を遮断するのは不可能だし、僅かにでも聞こえてしまえばコレからは逃げられないんだ。
産まれた時から俺に備わっている、常軌を逸した認識阻害能力。
コレは、本を正せばこちらの世界のものではない。
かつて。魔力や魔法が世界の根幹となっている世界からこちら側へと渡ってきた者がいたそうだ。
愛すべき者の魂を追って、所属する世界と過去を捨て去った名もなき者。
俺の先祖もそんな一人だったらしい。
異なる世界から排除されないように。
目立つことなく。騒ぐことなく。
自らの持つその能力を最大限に利用して。
その地に根差している草や花が野原に自然と紛れるように。
存在感を消してひっそりと生きてきた先祖たち。
愛する者と同じ世界で暮らしたい。ただそれだけの願いを叶えるために彼らはありとあらゆる制約を受け入れたそうだ。
外の世界から持ち込まれた能力は婚姻によりこちらの人間の中へと取り込まれ、代を重ねるごとに薄まりはしたけれど、時々俺のように先祖返りともいえる能力を持つ者を生み出してきた。
強すぎる認識阻害能力のせいで孤独を強いられる反面。そういった者達の素養は高く、成功者も多い。
――決して表舞台には出てこないが。
伴侶となるべき者にはなぜか姿が見えるとか。
制約が外れれば解放されるとか。
伝えられている情報は山ほどあるが、似たようなルーツを持つ者は複数いて、誰にどのルールが適用されるのかはもはや判別できない。
それでもそういった背景を持つ者同士、協力しながら生きているうちに分かってくる物事も多い。
仲間となるものへの秘密の共有――。
これさえ行えば、望む相手をこちら側へと引きずり込める。
おそらくは越えられない世界の壁とでも言うべきものでもあるのだろう。秘密を共有してしまえば、例えこの世界に生を受けた者でも、異物としてこちら側へと弾かれる。
その後は俺達の制約の中に組み込まれることになるけれど、仲間同士の結束は固いし、サポート体制も万全だ。
ルカは俺だけが見えるわけではないし、運命の相手ではないのかもしれないが、俺にとっては存在を認識してくれるだけでずっと特別な人間だった。
結婚でもして形の上で縛ってしまえば簡単だったのだろうが、愛だの恋だのと安い言葉で俺のアイツへの思いを表現するのは嫌だった。
例え婚姻で制約に取り入れ縛っても、離婚されて逃げられるんじゃ意味がない。もっと後戻りができない確実な方法で縛りたい。俺が、俺として在るためにはルカという存在が必要なんだ。
図書室で俺を見つけてくれたあの日から。
同じ場所で生きることをずっと望んできた。だから着実に準備を進めてきた。事前に同意を得ることは出来なかったけど、一方的に巻き込む形になってしまったけれど、決して一人にはしないから。
だから、どうか安心してこちら側へ来て欲しい。
その為に、全ての秘密を話すから――。
耳を塞ぎながらも、俺が語る話に目を丸くして驚いた表情を見せるルカ。
俺のあまりの執着心に拒絶されたらどうしようと不安になるも、時々、ふ……っと、表情を緩める様子に安心する。そうだよな。お前は優しいもんな。
今までだって結構引かれてしまいそうな言動をとってきたような気もするが、特にルカも気にしている様子はなかったし。
……まあ、比べられるほど人付き合いをしたことがないから世の中の基準なんてものは知らないが。
とりあえず耳を塞いだところで僅かでも情報が届く以上は世界の制約からは逃げられないし、俺の話に反応しているところを見るとちゃんと聞こえてはいるようだ。
よかった。あまり聞こえていない状態で人生を縛られて戸惑われるよりも、全てを理解した上で受け入れてもらった方が、ルカも今後の人生が生きやすくなるだろう。
当然、傍には俺がずっといるから大丈夫だ。
最期を迎えるそのときまで――決してお前から離れたりしないから。
全てを話す中で部室には魔力が満ちている。歴代の仲間たちが使ってきた部室。ここは俺達に一番近い場所だから、秘密の共有の儀式を行うには一番都合が良かった。
ルカのローブには俺の魔力が詰まっている。
昨日盛った魔力の影響は残念ながらかき消されてしまったようだが、話している最中に余計な邪魔も入らなかったし、ルカの耳には確実に俺の声が届いている。
秘密の共有が終わり、一か所に凝縮していく魔力。
ああ、これでやっと――。
安心して表情を緩めたそのときに。
「あ、先輩、怖い話終わりました??」
ずっと塞いでいた耳から手を離すルカ。
俺と同じような安心しきった顔をしているのが不自然だった。話……聞いていたんだよな?
だって、俺の話にあんなにコロコロと表情を変えて……って、その手に持っている小さい物は何なんだ?
パリン。
何かが割れるような音が部室に響いて。
「きゃあ! うわっ、何、今の音……って、あれ? えっ、先輩? 先輩どこ!?」
――ルカの認識から俺が消え去った。
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