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190 オカ研ローブの仕様変更

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「ふう、いい仕事した!」

 テーブルの上の刺繍糸とソーイングセットを眼鏡ケースに仕舞うと、王子はぬるくなったお茶を飲み干した。一仕事終えました~と言った様子だ。

 あ、ハイ。確かにいい仕事だと思う。驚きの完成度。

 魔法陣としてどこに出しても恥ずかしくないくらいの仕上がりで、絶対誰にも見せられないヤツ。私のなかの中二心がバッチリ刺激される。

 しかも、それが先輩の刺繍と違和感なく、ごく自然に紛れ込んでいる。


「なんか、このローブにも強い魔力を感じるんだよな。いつもの呪文でもいいんだけど、作成者に敬意を表して見られても気付かれないよう、ごくごく自然に刺繍にして混ぜてみた。僕の魔力は強いから大丈夫だと思う。あと、君は魔力が無いし、ついでに自然回復機能をつけておいた。これで、自然界の魔力や周辺の魔力を取り込めるから、エネルギー効率も上がったと思う。なんか、えらく偏った動力の確保の仕方をしていたから」


 なんと。私所有のこのローブには魔力があったようだ。でも、分かる気がする。先輩が入れてくれた刺繍はどれもこれも素晴らしいし、そういった物が自然と寄ってきても不思議はない。私が大好きなホラーで言うところの、人形には魂が宿る――みたいなそういう感じ?

 魔法陣だもの。魔力ぐらい宿るよね。
 ……まあ、私は魔力が無いらしいけど。布に負けた。

 魔力がどういうものなのかは分からないが、なんか、それで動くようにしてくれたようだ。

 あれか。現代技術と魔法とのハイブリッド。前に、王子がくれた耳栓と同じ。謎の相乗効果で誕生した完全防音の怖いヤツ。
 耳栓の出番がないことは祈るが、このローブは割と高機能というか、冬場の電気代節約になりそうな機能満載だったので、エネルギーの自動回復機能はありがたい。

 これでコスパ的にも安心して使えるというものだ。


「うん、すごくいいと思う。勝手に改造したの知ったら先輩嫌がるかもしれないし、でもお気に入りだから絶対汚したくなかったし。王子、ありがとう。早速着てみようかな」

「あ、ちょっと待ってくれ。幽閉中に覚えた刺繍には自信があるが、異世界の布に入れるのは初めてだからな。それに、城の地下ダンジョンで見つけた高魔力付与刺繍糸を使うのも初めてだから、僕が刺繍した魔法陣がちゃんとこちらでも作動するかを確かめたい」

 あれ? 今、さり気なくなんか言ってなかった? 好奇心旺盛王子、もしかしてソレ使ってみたかっただけなんじゃ……。

 王子はいそいそと立ち上がり、仕上げたばかりの刺繍入りローブを羽織る。顔がどことなくワクワクしてる。なんか、私のローブを実験に使われたっぽいな。
 ……楽し気だからまあ、いいか。刺繍自体は気に入ったし。

 王子はかなり背が高いから、流石に私サイズのローブだと小さい。でも、シャツなんかと違ってローブはフリーサイズっぽいとこあるから、違和感無く着用出来ている。まあ、元々紐で調整するタイプだしね。流石に丈は短いけど。

 ――で、こうしてローブを着用した王子を見ると心底思う。


 何か――偽王子みたいだなあ……と。


 周囲には偽王子達が王子に見えているらしいけど、私からみたら黒いローブを纏った変な人たちにしか思えない。

 あの、偽王子達が愛用しているローブと私所有のオカ研特製ユニフォームローブはそっくりだし、王子が着ると偽王子が一人増えたように見えてならない。

 いや、離宮から帰った時も思ったけど、本物が偽者に寄ってどうすんだ。なんか、段々本物が偽者に寄ってきてるよね? 私からしたら向こうの完成度は変わらず、なのに。

 でも――でもですよ。できればその状態でちょっとだけ眼鏡をかけてみてほしいかな~、なんて。

 ホラ、うちのサークルだとローブと言えば眼鏡だし?
 偽者さんに寄せるにしても、腹黒さんとか眼鏡だし? 

 ぶっちゃけ、この上無く似合うと思うの。だから是非!!

 そんな風に明後日の方向の考え事をしていたら。


「※※コレ□□○古い……□□○○○」


 ……って、ちょっ、何で急に中途半端翻訳に!??



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