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189 魅了堕ち幽閉王子の実力
しおりを挟む「すごい! なんかスッキリした」
胃が重いような、胸がムカムカするような。そんな不調のせいか頭まで少しボーっとしてきていたけれど、王子のお陰でその辺の不具合が全部消えた。
……っていうか、絶好調。ここのところの偽王子(猫耳)の夜のプチ召喚で若干寝不足気味でもあったんだけど、それすらない。まるで、栄養ドリンクを飲んだ後みたいな、妙なエネルギーに満ちている。
すごいな、魔力。胃薬王子ありがとう! しかもどうやらカフェイン入りみたい。眠気も消えた。
おやつを完食した王子様だけど、今日はゲームをやる気分ではないのか、食べ終わった後も折り畳みテーブルの前にのんびりと座っている。テーブルの上の食器を片付け、お茶のお代わりを注いでやると優雅に飲んだ。そして――。
「……その。実は来た時からずっと気になっていたんだが、ソレは――?」
そう言って、王子が見つめる方向には壁にかけられた真っ黒いローブ。
サークルに入った時に、先輩から手渡されたものだ。気に入ってはいたが、色々あって、ほぼ着ていない。
大学祭に参加するならいい機会だから着てみるか、とクローゼットから引っ張り出したものの、一年近く仕舞いっぱなしにしていた為、室内で風通しをしていたのだ。
「ああ、所属するサークルのユニフォームみたいなやつ。いい機会だから大学祭で着ようと思って。あー、でも甘いニオイついちゃったかも。外に干せば良かったかな。でも、日に焼けたり色落ちしたら嫌なのよねぇ……」
暗闇を紡いで織り上げたような完全なる黒色をしたローブ。見ているだけで飲み込まれそうな奇麗な黒なのに、それが損なわれたら勿体ない。
しかも、外側からは見えないが、内側には繊細な魔法陣の模様がコレでもかというほど刺繍されている。圧倒されるほどのそれは先輩のお手製らしい。いつまでも見ていたいほどの素晴らしい仕上がりだ。
……それ故、汚すの嫌だなーと着るのを躊躇する気持ちもある。
「ああ、だったら僕が品質保持魔法を掛けようか? 色落ちなんかも防げるぞ」
「えっ、いいの? やってやって!!」
「少し見せてくれ。フム……なるほど。これはすごいな。では、早速……」
私のローブを手に取ると、裏側の刺繍に感心した様子の王子様。隅々まで確認をすると――。
どこからかソーイングセットを取り出してそのまま刺繍をし始めた。
チクチクチクチク……。
チクチクチクチク……。
チクチクチクチク……。
え……。王子何してんの?
色とりどりの刺繍糸。ソーイングセットと共に取り出したソレを使って、王子はすごいスピードでローブに魔法陣の模様を刺繍していく。
途中、材料が足りなくなったのか眼鏡ケースから刺繍糸を取り出しているのは確認できた。ああ、いつものアレですね。空間魔法。
ってか、王子ってばソーイングセットとか持ち歩いてるんだ? この前は眼鏡ケース(空間魔法)からエコバッグ取り出していたけど。
王子の手は止まらない。……というか、徐々に早くなっているように見える。何、いつもみたいに『品質保持』って呪文みたいので一瞬で終わるヤツじゃないの? ってか、刺繍の腕前、凄いんですけど。
「『加速』」
チクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチク……ッ!!!
もはやミシンのようなスピードで。
ふと気が付けば――。
先輩の刺繍してくれた魔法陣に、王子の刺繍してくれた魔法陣がごくごく自然に混ざりこんでいた。
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