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149 夢見の悪い王子様

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「ううーん……やめてー。サクッとしないでぇぇー……!」

「ちょっと、ちょっと! 王子、大丈夫!? うなされてたけど」

「……はっ! 殺人鬼は!?」


 肩を揺らし、うなされている王子を起こすとびっくりしたように飛び起きた。

 キョロキョロと。周囲を見回し、ベッドと壁の隙間まで覗き込んでから。ほぅ……とため息をつくうなされ王子。最近のお昼寝では割と見慣れた光景だった。



 あれから。受ける講義も決まり、バイトのシフトも落ち着いて、再び始まった召喚生活。とりあえずは映画を一緒に見ようと誘ってみたら賛成されたので、早速アレコレ用意した。

 元々は、映画館に興味を持った王子に疑似的とはいえ、それっぽい体験をさせてあげるためにと考えたことだ。

 なので、映画館気分を味わうためにもポップコーンは外せない。王子の大好きなコーラも用意した。映画を見てるとついつい食べたくなるし、食べると何か飲みたくなっちゃうからね。

 ――で、映画は王子に選ばせてあげたかったんだけど、お任せすると言われたんでつい……大好きなホラー映画ばかりを選んでしまった。


 いや、ホラさ。日中はまだ夏みたいに暑いし。夏と言えばホラーだし。まあ、季節とか関係なく観たいけど。


 映画も、ゲームも、実はホラーが大好きな私。その辺もオカルト研究会所属の先輩と意気投合した原因の一つでもある。

 ただ――私はメチャクチャ怖がりだ。

 ホラーゲームに関しては高校生の頃あまりに怖がり過ぎて、当時大学生で一人暮らしをしていた3番目のお兄ちゃんの部屋に押しかけて一緒にやってもらったこともある。

 いや、だって。他のお兄ちゃんはそんなの付き合ってくれないし。かといって一人じゃ怖いし。

 文句を言いながらもお兄ちゃんはクリアするまで付き合ってくれた。ついでにと頼んで、一緒にホラー映画も見まくった。結果、あまり付き合ってもらえなくなった。


 だって、だって! ホラー大好きなんだもん!! 怖がりだけど、面白いんだもん!!!


 ホラー映画とかって最強じゃない? 怖いし、ちょっぴりセクシーなサービスシーンもあって、ハズレが少ないと思うの。総合的な満足点が高いというか……。

 とりあえず王子が一緒に見てくれるならチャンス……と思って、見たかったのとお勧めと面白そうなのをいろいろ用意した。王子は映画館気分を味わえて、私は安心してホラーを楽しめる。一石二鳥だ。

 見始めると止まらなくて、毎日1本はホラー映画を見ていた気がする。

 でも、流石に映画は長いから、その分大好きなゲームが出来なくなっちゃう王子がかわいそう。そう思ったから王子のゲーム時間確保のために夜の『オヤスミ☆ 私は寝るから後は勝手に帰ってね☆』召喚は続けてあげた。

 ……いえ、別に怖いの見たから隣に居て欲しいとか、そんなんじゃないですよ。そこは副産物というか何というか。

 眠るまで手を繋いでてほしいなんてわがまま言ったのは最初のひと晩だけですし。王子のことだからゲームやりたさに日付が替わる寸前までは居てくれるだろうとの、妙な安心と信頼感がありますし。

 強制召喚終了で外に出るのを怖がっていた時に、散々手をつないであげたんだからこのくらいはいいと思うの。



 まあ、そんな訳で満足するまでホラー映画を楽しんだわけだけど。どうやら、王子にも苦手なものがあるらしいことが分かった。

 幽霊やゾンビは珍しくもないし、居て当然だから怖くはないと王子は言っていた。それを聞いて私はますます怯えたわけだけど……。


 世界が違うし! 物理が違うし!!


――そう自分に言い聞かせてそこはスルーした。

 そんな、幽霊やゾンビが怖くない王子だが、殺人鬼とかストーカー的な悪役が出てくる、サスペンスに近いホラーは精神的にくるようだ。


「……この、殺人鬼やらストーカーって、つまりは暗殺者みたいなものだろう? あいつらはどこにでもいるからな。排除しても排除しても命を狙ってくる。幽閉前も幽閉後も何度狙われたことか。魔力目当てに他国からの策略で誘拐されかけたこともある。幽閉されてからは何かあるたびどんどん塔のセキュリティーは厳しくなるのに、どこからか入り込んでくるんだよなあ。幽霊やゾンビなんかは襲ってきたところで高が知れているけど、暗殺者は色々宿命的なのを背負って命懸けで僕の命を狙ってくるから質が悪い。遭遇率的には幽霊なんかより暗殺者の方がはるかに高いし。身につまされる分、身近で怖い。最後に死にかけたのいつだっけ」



 いや……。幽霊よりゾンビより、殺人鬼や暗殺者が身近で怖いって……。

 そんな訳で若干寝つきが悪くなってしまったようで、お昼寝王子が復活している。夢見が悪いせいか塔であまり眠れていないようだ。

 王子のこれはどう考えても私のせいなのでどうにかしてあげたい。何か、夢見が良くなるいい方法でもないだろうか。枕を換えればグッスリ――なんてうまいこといかないだろうか。
 ……と、それで思い出した。


 そうだ。枕と言えば……。


「王子、竜に持って行った枕どう? 気に入ってもらえたかしら??」




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