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137 クマちゃんと王子の冒険(王子視点)
しおりを挟む召喚主のおでこに縋りつくように残された魔力の痕跡。
成分的には僕の魔力で間違いないはずだけど、魔力の使用者のスキルや魔力操作の器用度によっては、他人の魔力に偽装することができるらしいし、もしかしするとアレは僕以外の、別の誰かの……?
「……おっと、いけない。ココを通るの三回目だ」
考え事をしながらダンジョンを進んでいたら迷ってしまった。
あれから数日。僕は予定通りに幽閉中の塔の地下にあるダンジョンの再調査を進めていた。召喚される筈の時間を冒険に充てているのだ
暇に飽かせて何度か攻略をしたことがあるものの、封印されている竜が寝返りを打つ度に地形が変わったりするので、このダンジョンは完全なマッピングをするのが難しい。実際、以前攻略したときとはかなり造りが変わっていた。
なので、再攻略の際はどうしても初期地点からのやり直しになってしまう。
とはいえ、多少地形は変わっても、罠や出現する敵は大差ない。そのせいで若干飽きてしまって、つい、考え事に没頭してしまった。
幽閉生活に飽きて自棄になっているときに何度か死にかけたこともあるのだから、油断はできないのに。
やりかけのゲームもあるし、現実はライフが一つしかないのだから、もっと気をつけなければ。
途中で死んだら召喚主に黙って勝手に持ってきてしまったクマが返せない。
背中のリュックから頭が飛び出したクマをしっかりと背負い直し、僕は気を引き締めた。
現在、僕の装備はいつもの正装に召喚主が用意してくれた冒険セット。リュックに余裕があったので、勝手に持ち帰ったクマも入れてある。
冒険するにはクマは邪魔になるかもしれないが、塔に残してくるのも不安だし、生還するお守り代わりに冒険中は持ち歩くことにした。それに伴い、汚れてはいけないので品質保持の魔法がかけてある。そのお陰で何度か魔物に攻撃されたがクマちゃんもリュックもピッカピカ。
見回りの兵士や食事・洗濯等の世話係のメイドにバレないように、僕の服にも品質保持の魔法はかけてある。仮に泥沼に落ちても血しぶきを浴びても痕跡は残らない。これで怪しまれることはないだろう。
僕は用意周到な王子だからな! 穏やかな幽閉生活を送るための事前の対策はバッチリです。
幸いなことに、ここ数日は竜の眠りが深いのか、寝返りのせいで地形に変化が起こることもなかった。お陰で魔法陣を使ってのショートカットが出来るので、攻略も進む。
見回りや食事の時間は塔に戻らなくてはならないので、コレは非常にありがたい。
そして、ようやくダンジョンの最下層付近、竜の寝床と呼ばれる場所へとたどり着いた。何度か来たことがあるけれど、来るたびに瘴気が濃くなっていた。今回はどうだろう。
竜の眠りが浅いと寝返りのせいで地震が起きるから、ダンジョンの地形に変化があった場合には塔に幽閉されていてもすぐ分かる。
まだ異世界召喚用の魔法陣が完成していない頃。それを合図にダンジョン攻略を繰り返していたのはいい思い出だ。数回死にかけたのは悪い思い出だけれども、地震があるたび、その両方を思い出す。
ここ数年は地震が増えていたから少しだけ心配でもあった。
まあ、塔はダンジョンも含めて認識阻害がかかっているから、城の人間のほとんどは気が付いていなそうだけれども。どの道、荒ぶっている竜が起きてしまったら滅亡コースまっしぐらなので、気が付かない方がギリギリまで幸せでいられるかもしれない。
僕は魔力が多い方だけれども、流石に竜には叶わない。
それでも、浅いとはいえ睡眠状態にある竜にならば覚えたての魔法も効果があるはずだ。
とりあえず竜に睡眠魔法を掛けられれば、当面の危機は回避できるし、異世界でゲームをやる時間くらいは稼げると思うので試したい。
そう思いつつ、認識阻害を自分にかけて竜の寝床へと入っていくと――。
『おまえは誰だ』
地面が震えるような声が響いた。そして、射すくめる様な目と合った。声と共に揺れ動く瘴気で体が震える。
そう。
魔法を試すも何も竜は既に起きていた。
――ああ。だからここ数日、竜は寝返りを打っていなかったのか……。
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